ごあいさつ
研究代表者 松井彰彦
社会はひとのために造られてきました。しかし、社会がひとのために造られてきたといっても、すべての人を等しく考慮するように造られてきたわけではありません。社会の構成員は、性格、能力、資力等においてそれぞれ大きく異なっているため、すべての人に便利な建物やきまりというものはなかなか存在しないのです。いきおい、「ふつう」の人に便利なものを造ろう、ということになります。
この「ふつう」という言葉をキーワードに、そこから外れた人々――とくに障害者、長期疾病者、そして児童養護施設(乳児院を含む)の「入所者」――に光を当て、その経済的側面を中心に知見を得ることが本研究の目的です。
これまで福祉の対象と見なされてきた「ふつう」でない人々が、福祉の世界から経済社会に入ろうとするとき、さまざまな障壁に直面します。「ふつう」でない人々を社会に包み込む――「ふつう」でない人を一人でも多く「ふつう」の人にする――ための糸口を探りたい。私たちはそう考えています。
それだけではありません。「ふつう」でない人々は「ふつう」の人々が直面する社会の歪みを映し出す拡大鏡であり、その問題を和らげることは社会全体の歪みを和らげることにもつながります。
これから5年間、「障害と経済」のプロジェクトから通算して10年間、みなさまのあたたかくもきびしい視線を感じながら、この問題に挑んでいきたいと思います。