REASE公開講座(2014年3月8日,東大経済学研究科棟)川島聡レジメ 権利条約時代の障害学 社会モデルを活かし,超える 1 権利条約 ・2006年12月13日 国連総会採択 ・2007年 9月28日 日本署名 ・2014年 1月20日 日本批准 2 英米の障害学 ・英国障害学:唯物論 ・米国障害学:観念論 3 英米の社会モデル ・英国社会モデル ・因果:社会的障壁→不利 ・用語:障害=社会的障壁or不利(社会的障壁による不利) ・米国社会モデル ・因果:機能障害+社会的障壁→不利(形式面)   :社会的障壁の問題を特に強調(実質面) ・用語:障害=不利(機能障害+社会的障壁による不利) 4 障害学の視点と理論 ・障害学の依拠する基本的な視点=社会モデル ・モデル=視点 ・モデル≠理論 ・障害学の理論  Ex. M. オリバーの理論      Ex. H. ハーンの理論 5 社会モデルの意義 ・発見道具(C. バーンズ) ・実践道具(M. オリバー) 6 社会モデルと統合モデル ・米国社会モデルの形式面≒統合モデル ・米国社会モデルの実質面≠統合モデル 7 障害学の意義と目的 ・障害をめぐる既存の知の問い直し(障害学会) ・障害者がよりよく生きることに貢献する(石川准) ・「障害者の差別・抑圧・権利侵害からの解放」という立場からの 「既存の諸学問の洗い直し」(堀正嗣) ・できないことをできるようにするプロセスの解明(リハ学)VS. できないこと自体の社会的原因の解明(障害学)(杉野昭博) Cf. 女性学:「女性の,女性による,女性のための学問」(井上輝子)と「人間を研究する時に,男性と女性というものの存在を視点の中にとりいれる姿勢を徹底させること」による,人間全体のための学問(原ひろ子) 8 抵抗と制度の障害学 ・抵抗の障害学:制度の受け手の立場から,抑圧的な制度への抵抗, その実態・原因・仕組の解明 ・制度の障害学:制度の担い手の立場から,人権のより効果的な実現 に資する制度の設計論と運用論 *誤字(本書112頁の左から15-10行目の「制度の障害学」「抵抗の障害学」は,正しくはそれぞれ「制度の憲法学」「抵抗の憲法学」である) 9 権利条約時代の障害学:社会モデルを生かし,超える ・権利条約の実現に向けて,学際的な研究を進める際の有益な共通の視点として,発見道具としての米国社会モデルを用いること ・権利条約の実現に向けて,障害者が実際に経験している不利な状態という現実の問題を研究の出発点に据えて,米国社会モデルという視点から,「抵抗の障害学」と「制度の障害学」を総合していくこと Cf. 障害学の研究者は,社会モデルから得られる知見を活かし,既存の政策がうまくいかない理由を明らかにし,引き続き社会変革に貢献しなければならない。もし研究者がこうした任務を放棄し,象牙の塔を一歩出たら何ら重要性を持たない抽象的な障害理論の構築にいそしめば,「信頼できる有意義な学としての障害学の死」を招くだろう(C. バーンズ)