指定討論『障害学のリハビリテーション』でまだ論じられていないこと JETROアジア経済研究所 開発研究センター主任調査研究員 森 壮也 本討論の構成 1. はじめに 2. 『社会モデル』の「社会」とは何か? 3. 理論と実証の間での相互作用なき議論 4. 英米の議論のみが輸入されており,他の国々の障害学の議論が不在 5. おわりに 1. はじめに ・『障害学のリハビリテーション』は,日本に輸入され,議論されている障害学に対し,今再びの省察を求めている点は,評価 ・社会学,経済学,法律学からの問題提起は良い ・一方で,コメントする人たちが,社会学,社会福祉学を元々の土壌とする人たちに偏っていないか,そのことで議論の展開にバイアス生じていないか 2. 『社会モデル』の「社会」とは? ・星加論文で,障害問題のスケーリングが取りあげられている。 ・伝統的な障害関連の学のスケーリングへの異議申し立てとしての社会科学のスケーリング ・社会を英国の社会科学や経済学がどう捉えていたのかは,障害学の文脈でもっと改めて考えられるべき ・公私二元論や社会の定性分析の議論が星加論文では出ているが,社会の中でどういったスケールを当てはめて考えたら良いのかという議論も障害学では,不足していることをもっと指摘すべき 3. 理論と実証の間での相互作用なき議論 ・社会科学では,経済学での計量経済学に見られるように実証の方法の研究が進んでいる ・通常の科学では,理論は実証とのインタラクションを通じて発展していく ・障害学では,実証が試みられなさ過ぎである 社会について論じるなら,あるスケールの社会を相手に現実のデータと対話すべき(森・山形,2013など) ・実証無き議論は,観念論でしかない ・現実との対話の仕方も社会福祉学や特別支援教育等での対話の仕方に留まっているのではないか 4. 英米の議論のみが輸入されており,他の国々の障害学の議論が不在 (1)北欧の障害学 北欧諸国の障害学(関係性モデル)は,ノーマライゼーションからスタート(Traustadottir, 2004, 2006など) (2)アジアの障害学 特にインドの障害学では,ジェンダーの問題議論(Ghai, 2002など) (3)世界の障害学 たとえば,DPIの「自立生活運動」の「自立」のA.センのケイパビリティ・アプローチにおける正義に関する議論との連関の理解(Nussbaum,2003など) 5. おわりに ・本書の議論を経て,編著者らが期待した障害学のポテンシャルは,果たして見えて来たのか? ・日本の障害学の再生が主題であったはずだが,社会モデルへの批判的検討に終わっていないか? ・障害学のリハビリテーションのためには,日本は,北欧やアジアなどでの障害学の発展,そして現実との学術的対話(実証研究を含む)からも学べるはずである 引用文献 Ghai, A.(2002). Disabled women: an excluded agenda for Indian feminism. Hypatia: A Journal of Feminist Philosophy, 17(3), 49-66. 森壮也・山形辰史(2013).『障害と開発の実証分析−社会モデルの観点から』勁草書房 Nussbaum, M. (2003). Capabilities as Fundamental Entitlements: Sen and Social Justice, Feminist Economics 9(2 - 3), 33-59 Traustadottir, R. (2004). Disability Studies: a Nordic perspective. Keynote lecture, British Disability Studies Association Conference, Lancaster, 26-28 July. ___________(2006). Disability Studies: a Nordic perspective. paper presented at the Applying Disability Studies Seminar Center of Applied Disability Studies, University of Sheffield, May.