「医療モデル」を、再び問う―インペアメントから、離れ難き者たちから 大野更紗(おおの さらさ) 難病当事者、明治学院大学大学院社会学研究科社会学専攻 ■討論の趣旨 ・日本の障害当事者運動および障害学においては、「医療モデル」は、「社会モデル」の対抗図式の相手として、あるいは克服するべき支配的な視点として捉えられ、主に議論や理論形成がなされてきた。 ・「医療モデル」は、「社会モデル」の単なる対抗言説として矮小化されてきたのではないかという問題意識のもと、「医療モデル」がどのように提示されてきたのかについて考察する。 ■アウトライン 1.問題意識 2.医療モデルは、「去りゆく敵」か? 3.制度の障害学 方向喪失(ディスオリエンテーション)の時代 4.おわりに 1.なぜ「医療モデル」を再考するのか 3つの枠組みと、その分断の出現 ・「(健康な)障害者」 ・「(常に高度な専門的医療を必要とする)障害者」 ・「(健康ではない)(慢性疾患や特殊な困難等を抱える)障害者」 医療にとっての、「社会モデル」とはなにか 2.「医療モデル」は去りゆく敵か? 新しい、21世紀型の医療モデル 医科学技術の進歩と、命が選別される現実 出生前検査という経験への「抑圧」作用 特定の先天性疾患をもつ女性たちにとっての出生前検査 「障害者殺し」と社会モデル批判 「自己決定権」による個人化 Morrisの「2つのバイアス」 上田敏とMorrisのリハビリテーション理解 「矮小化された社会モデル」に一対をなす「矮小化された医療モデル」 3.制度の障害学 「抵抗の障害学」 「制度の障害学」 ポスト・権利条約批准時代の当事者運動 方向喪失(ディスオリエンテーション)の時代 4.おわりに 厳しい時代の「普遍化」とは 何のために、誰が、どうやって闘う? 参考・引用文献 邦文文献 猪飼周平[2010.3.31], 『病院の世紀の理論』有斐閣。 上田敏[2013.6.1], 『リハビリテーションの歩み:その源流とこれから』医学書院。 川越敏司・川島聡・星加良司編[2013.8.13], 『障害学のリハビリテーション:障害の社会モデルその射程と限界』生活書院。 杉野昭博[2002.10.31]「インペアメントを語る契機:イギリス障害学理論の展開」石川准・倉本智明編『障害学の主張』明石書店, 第8章。 柘植あづみ・菅野摂子・石黒眞理[2009.12.10], 『妊娠:あなたの妊娠と出生前検査の経験をおしえてください』洛北出版。 山下麻衣編[2014.2.17], 『歴史のなかの障害者』一般財団法人法政大学出版局。 欧文文献 Morris, J. [1991], Pride Against Prejudice: Transforming Attitudes to Disability, London: The Women’s Press. Oliver, M. [1990], The Politics of Disablement, Macmillan (三島亜希子・山岸倫子・山森亮・横須賀俊二訳[2006.6.5], 『障害の政治:イギリス障害学の原点』明石書店). Rapp, R. [2000], Testing Women, Testing the Fetus: The Social Impact of Amniocentesis in America, New York: Routledge. Shakespeare, T. [2014], Disability Rights and Wrongs Revisited: Second Edition, Oxford: Routledge.