改正障害者雇用促進法の概要 平成27年3月7日 厚生労働省職業安定局 障害者雇用対策課 松永 久 2 障害者雇用の現状 3 障害者雇用の状況 (平成26年6月1日現在) ○ 民間企業の雇用状況 雇用者数 43.1万人 (身体障害者31.3万人、知的障害者9.0万人、精神障害者2.8万人) 実雇用率 1.82% 法定雇用率達成企業割合 44.7% ○ 25年4月に引き上げた法定雇用率(2.0%)には届かないものの、雇用者数は11年連続で過去最高を更新。障害者雇用は着実に進展。 ( H25.4.1 ) グラフ (注)平成22年度の改正前の制度に基づいて実雇用率を推計した場合、平成23年度は1.75%、平成24年度は1.79%である。 4 ハローワークにおける障害者の職業紹介状況 ○ 平成25年度の就職件数・新規求職者数は、前年度から更に増加。 ○ 特に、就職件数は77,883件と4年連続で過去最高を更新。 グラフ 新規求職申込件数(件) 就職件数(件) 就職件数の前年度比(%) 5 ハローワークの障害種別の職業紹介状況(就職件数) 平成16年度 身体障害者 22,992件 64.1% 知的障害者 9,102件 25.4% 精神障害者 3,592件 10.0% その他 185件 0.5% 全 数 35,871件 平成25年度 身体障害者 28,307件 36.3% 知的障害者 17,649件 22.7% 精神障害者 29,404件 37.8% その他 2,523件 3.2% 全 数 77,883件 6 改正障害者雇用促進法の概要 7 障害者権利条約の批准について (参考) ○ 障害者権利条約は、障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約であり、2006(平成18)年12月に採択される。 ○ 我が国は、同条約に2007(平成19)年に署名し、同条約の批准に向けて法整備を進め、法整備の一つとして「障害者の雇用の促進等に関する法律」で所要の改正を行った(2013(平成25)年6月成立)。 ※ ○ 労働・雇用分野については、公共・民間部門での雇用促進等のほか、 1 あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全・健康的な作業条件を含む。)に関する差別の禁止 2 公正・良好な労働条件、安全・健康的な作業条件及び苦情に対する救済についての権利保護 3 職場において合理的配慮が提供されることの確保等のための適当な措置をとることにより、労働についての障害者の権利の実現を保障・促進。 ○ こうした法整備を行い、2014(平成26)年1月20日に批准され、同年2月19日に同条約は我が国について効力を発生した。 ○ なお、2014(平成26)年3月現在で、世界143の国及び地域が批准している。 8 障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要 雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、障害者の雇用に関する状況に鑑み、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加える等の措置を講ずる。 1.障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応 (1)障害者に対する差別の禁止 雇用の分野における障害を理由とする差別的取扱いを禁止する。 (2)合理的配慮の提供義務 事業主に、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることを義務付ける。ただし、当該措置が事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなる場合を除く。 (想定される例) ・ 車いすを利用する方に合わせて、机や作業台の高さを調整すること ・ 知的障害を持つ方に合わせて、口頭だけでなく分かりやすい文書・絵図を用いて説明すること →(1)(2)については、公労使障の四者で構成される労働政策審議会の意見を聴いて定める「指針」において具体的な事例を示す。 2.法定雇用率の算定基礎の見直し (3)苦情処理・紛争解決援助 法定雇用率の算定基礎に精神障害者を加える。ただし、施行(H30)後5年間に限り、精神障害者を法定雇用率の算定 1 事業主に対して、(1)(2)に係るその雇用する障害者からの苦情を自主的に解決することを努力義務化。 基礎に加えることに伴う法定雇用率の引上げ分について、本来の計算式で算定した率よりも低くすることを可能とする。 2 (1)(2)に係る紛争について、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の特例(紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告等)を整備。 3.その他 障害者の範囲の明確化その他の所要の措置を講ずる。 施行期日:平成28年4月1日(ただし、2は平成30年4月1日、3(障害者の範囲の明確化に限る。)は公布日8 (平成25年6月19日)) 9 1 障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務について ◎ 障害者に対する差別禁止※1、合理的配慮の提供義務※2 を規定 【施行期日 平成28年4月1日】 。 ※1 不当な差別的取扱いを禁止。このため、職業能力等を適正に評価した結果といった合理的な理由による異なる取扱いが禁止されるものではない。 ◎ 必要があると認めるときは、厚生労働大臣から事業主に対し、助言、指導又は勧告を実施。 今後、労働政策審議会障害者雇用分科会の意見を聴いて、具体的な内容は指針を策定。なお、禁止される差別や合理的配慮の内容として、以下のものなどが想定される。 【差別の主な具体例】 【合理的配慮の主な具体例】 ※2 事業主に対して過重な負担を及ぼすときは提供義務を負わない。 募集・採用の機会 ○ 身体障害、知的障害、精神障害、車いすの利用、人工呼吸器の使用などを理由として採用を拒否することなど 賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用など 障害者であることを理由として、以下のような不当な差別的取扱いを行うこと ○ 賃金を引き下げること、低い賃金を設定すること、昇給をさせないこと ○ 研修、現場実習をうけさせないこと ○ 食堂や休憩室の利用を認めない など 募集・採用の配慮 ○ 問題用紙を点訳・音訳すること・試験などで拡大読書器を利用できるようにすること・試験の回答時間を延長すること・回答方法を工夫すること など 施設の整備、援助を行う者の配置など ○ 車いすを利用する方に合わせて、机や作業台の高さを調整すること ○ 文字だけでなく口頭での説明を行うこと・口頭だけでなくわかりやすい文書・絵図を用いて説明すること・筆談ができるようにすること ○ 手話通訳者・要約筆記者を配置・派遣すること、雇用主との間で調整する相談員を置くこと ○ 通勤時のラッシュを避けるため勤務時間を変更すること など 10 2 法定雇用率の算定基礎の見直しについて ◎ 法定雇用率の算定基礎の対象に、新たに精神障害者を追加 【施行期日 平成30年4月1日】。 ◎ 法定雇用率は原則5年ごとに見直し。 ⇒ 施行後5年間(平成30年4月1日~平成35年3月31日まで)は猶予期間とし、精神障害者の追加に係る法定雇用率の引き上げ分は、計算式どおりに引き上げないことも可能。 ※ 具体的な引上げ幅は、障害者の雇用状況や行政の支援状況等を踏まえ、労働政策審議会障害者雇用分科会で議論。 【法定雇用率の算定式】 法定雇用率 = 身体障害者、知的障害者及び精神障害者である常用労働者の数 + 失業している身体障害者、知的障害者及び精神障害者の数 追加 /常用労働者数 - 除外率相当労働者数 + 失業者数 ○ 平成25年4月1日~平成30年3月31日 【激変緩和措置の内容】 身体障害者・知的障害者を算定基礎として計算した率(2.0%) ○ 平成30年4月1日~平成35年3月31日 身体障害者・知的障害者を算定基礎として計算した率と身体障害者・知的障害者・精神障害者を算定基礎として計算した率との間で政令で定める率 ○ 平成35年4月1日以降 身体障害者・知的障害者・精神障害者を算定基礎として計算した率 11 法定雇用率の対象となる障害者の範囲の変遷 (参考) 昭和51年、身体障害者を対象とする雇用率制度を創設。平成10年には、知的障害者を法定雇用率の算定基礎の対象に追加。さらに、平成30年4月から、精神障害者を法定雇用率の算定基礎の対象に追加(※)。 ※ 施行後5年間は激変緩和措置として、身体障害者・知的障害者を算定基礎として計算した率と身体障害者・知的障害者・精神障害者を算定基礎として計算した率との間で政令で定める率とする。 各企業が雇用する障害者の割合(実雇用率)を計算する際の対象には、知的障害者を昭和63年に、精神障害を平成18年に追加。 昭和51年 10月 身体障害者 法定雇用率の算定基礎の対象 「身体障害」のみ 昭和63年 4月 知的障害者 実雇用率に追加 知的障害者を雇用した場合は身体障害者を雇用した者とみなす。 平成10年 7月 法定雇用率の算定基礎の対象 「身体障害」と「知的障害」 平成18年 4月 精神障害者 実雇用率に追加 精神障害者を雇用した場合は、身体障害者又は知的障害者を雇用した者とみなす。 平成30年 4月 法定雇用率の算定 基礎の対象 「身体障害」と「知的障害」と「精神障害」 12 3 苦情処理・紛争解決援助について ◎ 事業主は、障害者に対する差別や合理的配慮の提供に係る事項について、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、その自主的な解決を図るよう努める。 ◎ 当該事項に係る紛争は、個別労働紛争解決促進法の特例を設け、都道府県労働局長が必要な助言、指導又は勧告をすることができるものとするとともに、新たに創設する調停制度の対象とする。 企業 障害者である労働者 事業主 紛争 自主的解決 解決しない場合 都道府県労働局 紛争調整委員会(労働局長の委任によるもの)* 調停委員による調停・調停案の作成・受諾勧告 * 必要があると認めるときは、当事者又は障害者の医療等に関する専門的知識を有する者などの意見を聴くことが可能 都道府県労働局長による紛争当事者への助言・指導・勧告 13 4 障害者の範囲の明確化 ○ 改正障害者雇用促進法における障害の定義について、改正障害者基本法を踏まえ、 1 精神障害に発達障害が含まれること、 2 難病に起因する障害がふくまれることを明確化するために改正。※ 改正前から発達障害者等は障害者雇用促進法上の障害に含まれており、改正前後で障害の範囲は変わらない。 改正前第2条第1号 身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。 改正法第2条第1号 身体障害、知的障害又は精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。 ※ 平成23年の障害者基本法改正においても、同趣旨の改正を実施。 ※ 発達障害等は改正前の障害者雇用促進法上の障害に含まれており、改正前後で障害の範囲は変わらない。 14 改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮提供の指針について 15 労働政策審議会障害者雇用分科会委員名簿〔平成26年10月22日現在〕 (公益代表) 阿部 正浩 中央大学経済学部教授 菊池 恵美子 帝京平成大学健康メディカル学部作業療法学科教授 武石 恵美子 法政大学キャリアデザイン学部教授 中川 正俊 田園調布学園大学人間福祉学部教授 松爲 信雄 文京学院大学人間学部教授 山川 隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授 【会長】 (労働者代表) 板垣 恒子 全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会書記次長 榎本 朋子 全日本自治団体労働組合社会保障局長 桑原 敬行 全日本自動車産業労働組合総連合会副会長 熄シ 和夫 日本労働組合総連合会総合労働局雇用対策局長 斗内 利夫 UAゼンセン常任中央執行委員(労働条件担当) (使用者代表) 栗原 敏郎 株式会社大協製作所代表取締役社長 塩野 典子 富士通株式会社総務人事本部人事労政部シニアディレクター 高橋 弘行 一般社団法人日本経済団体連合会労働政策本部長 平岡 真一 株式会社日立製作所人事勤労本部担当本部長 本郷 滋 株式会社アイネット代表取締役 (障害者代表) 阿部 一彦 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会副会長 小出 隆司 全国手をつなぐ育成会連合会副会長 竹下 義樹 社会福祉法人日本盲人会連合会長 堤 年春 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事 *五十音順・敬称略 16 差別禁止指針の概要 (1)基本的な考え方 ○ 対象となる障害者:障害者雇用促進法第2条第1号に規定する障害者(※) ⇒障害者手帳所持者に限定されない。 ※障害者:身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。 ○ 対象となる事業主:すべての事業主 ○ 直接差別を禁止(車いす、補助犬その他の支援器具などの利用、介助者の付き添いなどの社会的不利を補う手段の利用などを理由とする不当な不利益取扱いを含む)。 ○ 事業主や同じ職場で働く者が障害特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要である。 (2)差別の禁止 ○ 募集・採用、賃金、配置、昇進などの各項目において、障害者であることを理由に障害者を排除することや、障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが差別に該当するとして整理。 例:募集・採用 イ 障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること。 ロ 募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。 ハ 採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること。 ○ ただし、次に掲げる措置を講ずることは、障害者であることを理由とする差別に該当しない。 ・ 積極的差別是正措置として、障害者でない者と比較して障害者を有利に取り扱うこと。 ・ 合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果として異なる取扱いを行うこと。 17 合理的配慮指針の概要1 (1)基本的な考え方 ○ 障害者、事業主の範囲は差別禁止指針と同じ。 ○ 合理的配慮は個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のもの。 ○ 合理的配慮の提供は事業主の義務であるが、採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には合理的配慮の提供義務違反を問われないこと。 など (2)合理的配慮の内容 ○ 合理的配慮として、多くの事業主が対応できると考えられる措置を「別表」で例示。 (「別表」は、あくまでも例示であることに留意) (別表の記載例) 【募集及び採用時】 ・ 面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。(知的障害など) ・ 面接を筆談等により行うこと。(聴覚・言語障害) など 【採用後】 ・ 机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと。(肢体不自由) ・ 移動の支障となるものを通路に置かない。(視覚障害、肢体不自由) ・ 本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと。(知的障害) ・ 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。(精神障害ほか) ・ 業務指導や相談に関し、担当者を定めること(精神障害ほか) など ※ 指針とは別に、合理的配慮の具体的事例を集めた事例集を作成し、指針と併せて周知する予定 18 合理的配慮指針の概要2 (3)合理的配慮の手続 1 募集・採用時:障害者が事業主に対して申し出る。 採用後:事業主が障害者に対して職場で支障となっている事情の有無を確認する。 2 合理的配慮に関する措置について事業主と障害者で話合う。 3 合理的配慮に関する措置を確定し、講ずることとした措置の内容及び理由(過重な負担にあたる場合はその旨及びその理由)を障害者に説明する。 ※ 障害者の意向確認が困難な場合、就労支援機関の職員等に障害者の補佐を求めても差し支えない。 (4)過重な負担 ○ 事業主に「過重な負担」を及ぼすこととなる場合は合理的配慮の義務を負わない。合理的配慮に係る措置が過重な負担に当たるか否かについては、次に掲げる要素を総合的に勘案しながら個別に判断する。 ・事業活動への影響の程度 ・実現困難度 ・費用・負担の程度 ・企業の規模 ・企業の財務状況 ・公的支援の有無 ○ 事業主は、過重な負担に当たると判断した場合はその旨及びその理由を障害者に説明する。その場合、事業主は、障害者の意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講ずる。 (5)相談体制の整備 ○ 障害者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 ○ 相談者のプライバシーを保護するために必要な措置の実施 ○ 相談したことを理由とした不利益取扱いの禁止 など