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2017年4月19日

重要文化財のアクセシビリティ3

丹羽太一

日光東照宮
福祉のまちづくり学会「文化財・世界遺産のアクセシビリティに関する研究会」日光視察レポート
視察日:2017年2月27日 東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授髙橋儀平他

研究概要については重要文化財のアクセシビリティ1

日光東照宮
1999(平成11)年に社殿群が世界文化遺産に登録。
1998(平成10)年、世界遺産登録推薦に先がけ日光山内として国の史跡に登録。現在の社殿群は、そのほとんどが徳川家康鎮座から20年後の寛永13年(1636)に建立。陽明門(国宝)など55棟。境内の特徴は、自然の地形を生かした参道や階段を用い、バランス良く配置された社殿群が荘厳な宗教的空間をつくりだしていることにあるという。さらに建物には、漆や極彩色がほどこされ、柱などには数多くの彫刻が飾られていますが、これらは単なるデザインではなく、信仰形態や学問・思想があらわされている。(日光東照宮HPより)
年間200万人弱の来訪者があるという。 ウェブサイト:日光東照宮 http://www.toshogu.jp/

 ウェブサイト:陽明門
陽明門(ウェブサイトより)

(0-1) ウェブサイトからの事前の情報取得について
ウェブサイトにはバリアフリー情報・多言語表記などはなく、車いす使用者などがどこまで拝観が可能かなどは分からない。日光東照宮社務所に電話にて確認を行ったところ、以下のような回答があった。
・日光駅からバスを使用した場合、[表参道]で下車した後、砂利道であること。
・車いす用の駐車場は用意はなく、一般駐車場に駐車とのこと。大駐車場からは坂があること。
・表門までは急な階段がある。陽明門下まで段差なく行ける車いす使用者用経路があるので、受付でその旨を伝えること。
・陽明門から先は階段が多いため、同行者が持ち上げるなどすれば行くことはできるが、職員が手伝うことは出来ないとのこと。
・車いすの貸し出しあり。
・車いす使用者へのボランティアに関しては、日光市社会福祉協議会に問い合わせのこと((5)ボランティアについて参照)

(0-2) 情報について
日光東照宮のパンフレットは日本語、英語のみ用意されている。掲示はほとんど日本語のみ。※世界遺産エリアで看板を統一するという案があるが進んでいない。
※日光市は日光案内の多言語化を推進しており、日光市の観光PR パンフレットは外国語版8カ国語9言語が用意されている(英語、中国語(繁体、簡体)、韓国語、タイ、仏、独、伊、スペイン)。世界遺産の日光東照宮と日光二荒山神社、日光山輪王寺の概要や歴史的背景、建造物、修復事業などを説明している。

 パンフレット
日光市観光 PR パンフレット(9 言語)

(0-3) 拝観料について
ウェブサイトには一般(大人・高校生、小・中学生、個人・団体客)の拝観料(1300円)に関する記載はあるが、障害者手帳提示に関する記載はない。電話で確認すると、障害者手帳の提示で本人のみ700円になるが、鳴竜を拝観する場合は、管理が輪王寺になるために、一般の拝観料(1300円)となる。

 拝観券
拝観券(写真)

(1-1) 日光駅までのアクセス
東武日光線への特急は浅草始発だが、東京方面からは、新宿発・池袋経由のJRが東武線に乗り入れており、東武日光駅まで直通で行ける列車がある。車両には車いす用スペースがあり、事前予約で指定出来る。(みどりの窓口へ行く必要あり。)

 特急日光車いす車両
JR 直通東武特急日光車いす車両

車両内には多目的トイレも近くに設置されている。

 特急日光多目的トイレ
特急日光多目的トイレ

(1-2) 最寄り駅から日光東照宮までのアクセス
東照宮へは、東武日光駅前のバス停からノンステップバス[世界遺産めぐり]に乗り、バス停[表参道]で下車となる。バス停は東武日光駅の目の前に位置し、段差なく車いすで行ける。

 東武日光駅前
東武日光駅前

バスのりばまでは、駅前に案内看板がある。

 東武日光駅前バスのりば案内
東武日光駅前バスのりば案内

東武日光駅前から、バス停[2C・世界遺産めぐり]前まで、点字ブロックが敷設されている。

[2C ・ 世界遺産めぐり]  バス停前
[2C ・ 世界遺産めぐり] バス停前

※ 東武日光駅構内

 東武日光駅構内
東武日光駅構内

東武日光駅構内の案内サインは、基本的に日本語・英語の二カ国語であるが、主要表示は四カ国語となっている。

案内サイン
案内サイン:主要表示は日本語・英語・中国語・韓国語の四カ国語、他は日本語・英語の二カ国語

外国人観光客用に五カ国語の東武鉄道パンフレットが駅に用意されている。

パンフレット
五カ国語の東武鉄道パンフレット

デジタルサイネージでバスの運行状況や観光地の紹介がされている。

デジタルサイネージ
デジタルサイネージ

他、待合室、多機能トイレやロッカーなどが設置されている。

待合室
待合室

多機能トイレ ・ ロッカー前
多機能トイレ ・ ロッカー前

(2) 駐車場の場所とバス停・タクシー乗降場から拝観受付所までの経路について
駐車場の場所とバス停やタクシー乗降場から日光東照宮の位置関係は日光東照宮配置図の通りである。

日光東照宮配置図場
日光東照宮配置図

車いす用の駐車場は特に用意はされていない。一番近い駐車場はタクシーのりばの横となるが、台数はあまり止められない。大駐車場からは、車いすで入る場合の出入り口までは少し距離があり、急な坂道となっている。
駐車場の情報は以下の通り(ウェブサイトより)
*普通車:200台駐車可。
*マイクロバス、大型バス:駐車台数に制限あり。7日前までに要予約。土・日・祝祭日は駐車不可。

日光東照宮に近いバス停[表参道]から石鳥居までは、 長く緩やかな砂利道の坂の表参道を上る。

砂利道の表参道
長く緩やかな砂利道の表参道

タクシーの乗降場は表参道の途中となる。

タクシー乗り場
参道よりタクシー乗り場への案内

表参道から石鳥居へ続く道に10cmほどの隙間がある。

鳥居前
表参道から石鳥居へ続く道にある隙間

石鳥居の下は階段となっているが、石鳥居の右側は石で組まれたスロープになっているので、車いすでも通ることはできる。凸凹なので介助があった方が良い。

鳥居横
石鳥居右側のスロープになった道

石鳥居横を上がった左手に拝観受付所がある。
境内入り口に表門があるが、17段ほどの階段があるため、受付で車いす用の迂回路を案内される。

表門
表門を見上げる

(3) 車いす経路と段差のある場所
本東照宮は日光霊峰の山懐聖地恒例山にある。そのため、急な階段が多い。車いす経路と段差のある場所は図の通りである。

車いす経路と段差のある場所
車いす経路と段差のある場所(配置図)

拝見受付所から境内へは、表門まで17段の階段があるため、車いす使用者は境内横の門を案内される。

車いす用経路入り口
車いす用経路入り口

門を開け、簡易スロープを門手前と中の2箇所に設置し、車いす使用者は境内に入る。

車いす用経路入り口
車いす用経路入り口:一部仮設スロープを設置する

その先には長いスロープが常設されており、神楽殿裏を通って、表門前へ出て、通常の経路と合流する。神厩舎の三猿を左手に見て、御水舎の近くまで行って心身を清めながら、陽明門の前まで、車いす使用者でも進むことが出来る。

車いす用経路
車いす用経路(神楽殿裏)
車いす用経路
車いす用経路(神楽殿横)
表門
車いす用経路を通って表門前へ

鳴竜
陽明門前、左側に位置する輪王寺管理の本地堂内部に鳴竜がある。一般の人はお寺の内部には靴を脱いで階段を上る。車いす使用者は、若い住職さんが車輪を雑巾で拭いて、そのまま車いすを持ち上げて階段をあげてくれる。鳴竜の説明は日本語だけでなく、住職さんによる英語もあり外国人旅行者への配慮もあった。

本地堂入り口
本地堂入り口で車いす車輪を住職が拭いてくれる
本地堂階段
本地堂内部までの階段も住職が持ち上げてくれる

陽明門からその先
階段や段が多くある(図24)。迂回路やスロープなどは設置されていない。同行者などに車いすを持ち上げてもらって進むことは問題ないが、東照宮内で働く職員や警備員などによる手伝いは不可とのこと。ただし、車いすを使用する修学旅行者や旅行者が多いことから、子供の車いす使用者に関しては日光市のボランティアにより、同行して介助をしてもらえる。

陽明門前の階段
陽明門前の階段

御本社
御本社へは唐門右横の祈祷殿から、履き物を脱いで入る。靴を脱ぐ場所には30cm程度の高さがある。また、本殿まで行くには5段ほどの階段がある。

唐門
唐門(ウェブサイトより)
祈祷殿下足場
祈祷殿下足場
本殿へ上がる階段
本殿へ上がる階段:同行者が持ち上げて入る

坂下門
坂下門下には 53 cmほどの狭い廊下のような場所を通らなくては ならない。 坂下門にある眠り猫は手前からも見られるが、 この板 の間に上がった方が近づいてよく見える。

坂下門下
坂下門下の通路

奥宮
坂下門の先にある重要文化財の奥宮(御祭神の墓所)までは200段ほどの階段がある。迂回路はない。4人で車いすを抱えて登ることはできるが、階段はとても急である。また幅が狭いため、他の拝観者とのすれ違いなど気をつける必要がある。途中一箇所、お茶の買える自販機のある休憩所がある。

奥宮までの階段
奥宮までの幅の狭い階段
奥宮鳥居
奥宮手前鳥居

基本的に境内には休憩所として設置されていないが、奥宮へ続く200段の階段の上がった奥宮拝殿前には自動販売機と椅子の休憩場所が設置されている。

奥宮までの階段途中の休憩所
休憩所に設置された自動販売機

奥宮宝塔
奥宮宝塔の周りには石敷きの所に、幅1m20cm程度の板が巡らされている。車いすでも回ることができるが、板の通路の端が上がっていないため車輪が落ちないように気をつけないといけない。

板が巡らされているので車いすで通れる
板が巡らされているので車いすで通れる
端に車輪止めがない
通路の端に転落止めなどはない

(4) トイレ
トイレ案内は日本語と英語となっている。表門横からスロープでトイレに繋がっている。先ほどの車いす用経路の途中となる。一般トイレの横に多機能トイレが設置されている。多目的トイレ内部は奥行き2m40cm×幅1m60cm程度の広いスペースの中、おむつ替えベッドが設置されているが、トイレ便器横の手すりや、オストメイトなどの設置はない。冬の寒さに備えて暖房器が一般トイレ・多目的トイレともに設置されている。


トイレ案内: 日本語と英語の二カ国語

トイレ前スロープ:左が車いす用スロープになっている

多目的トイレ

多目的トイレ内部 ・ 洗面台

多目的トイレ内部

(5) ボランティアについて

インタビュー
ボランティア・社会福祉協議会の方々へのインタビュー

車いすボランティア:車いすを持ち上げて陽明門から先の境内の拝観の手伝いなどを行う。
対象:修学旅行生など小学生までの車いす使用者を対象としている。家族旅行は基本的には受け付けていない。
※修学旅行では普通学校では多くても2名程だが、支援学校の場合は一度に6名程になることも。シーズン期には月10校程度申し込みがあることもあり、平成28年度は約40校の申込中30校を案内した。

ボランティアグループについて:
発足のきっかけ:車いす使用者も東照宮を拝観したいという要望から2010年頃に始まる。
講習会:車いす対象とした講習会を年に1-2回程度行う。
メンバー:登録22-23名程度。4人を一チームとする。1ヶ月1人2回まで。チームリーダーは社会福祉協議会がその都度指名。
 ※ボランティア登録した人の例:[日光便り]を見たのがきっかけで講習を受け登録。
 ※トイレの付き添いもあるため、女性のボランティアも必要。
 ※無給である。ボランティアの人の駐車場は無料。ただし、ボランティア保険は個人で加入。
気をつけていること:階段で車いす持ち上げる際、かけ声をかけると「荷物のようだ」と苦情があったので声がけはしない。陽明門の階段の勾配がきつく、段数が多いので特に気をつけている。

日光市内のボランティア:
日光市社会福祉協議会が車いすボランティアなどをまとめている。
 ※登録ボランティアは傾聴ボランティア、観光ボランティア、翻訳ボランティア、点字ボランティア、音訳ボランティア等40-50組織ほど

ボランティアの依頼方法:
学校が日光市役所に問い合わせ、市役所から社会福祉協議会へ連絡がいく。

他:
集合場所は輪王寺のお寺前。小雨ならば行うが、雨の場合は滑るなど危険なので中止となる。

(6) 日光東照宮のバリアフリー化について
・東照宮のスタッフ数:72-73名程
・車いすトイレ:以前からあったが、平成26年に改修し現在のようになった
・車いす用スロープによるバリアフリールートの設置は平成26年、きっかけは高齢者社会に向けて車いす使用者が多くなったため
・建設業者に全国の神社仏閣の現状調査を依頼して改修方法を考えた
・案内情報について:かつて手話が出来る巫女さんがいたが、現在は不在
・神社としては手すりやスロープを本設にしたりバリアフリー化を進めていきたいが、重要文化財のため、文化庁から仮設とするように指示があるなど、なかなか進められないのが現状である。
・框のスロープは健常者のためにもあると良く、また、階段からの転落事故もあったことから手すりも設置したいが、土も掘ることができず、すぐに撤去できるような手すりにしなくてはならない。
・ボランティアや同行者などの介助の人がいれば、本殿手前まで車いすでも行ける。ただし、迂回路の利用時以外は職員に介助の依頼をすることは出来ない。
・かつては、神社は帽子や傘などの使用が不可であったが、現在はいずれも使用が可能となった。

2016年10月31日

重要文化財のアクセシビリティ2

丹羽太一

宇治平等院と宇治上神社
福祉のまちづくり学会「文化財・世界遺産のアクセシビリティに関する研究会」京都視察レポート
視察日:2016年7月22日 東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授髙橋儀平、大阪大学未来戦略機構特任助教石塚裕子他

研究概要については重要文化財のアクセシビリティ1
宇治平等院
宇治上神社
宇治の観光ボランティア

宇治平等院
1994(平成6)年に古都京都の文化財が世界文化遺産に登録。17ヶ所の寺院、神社、城で構成されたうちの1つ。平安時代後期11世紀の建築や庭園などが残る。年間150万人ほどの観光客が訪れるという。
ウェブサイト:世界遺産平等院京都宇治 http://www.byodoin.or.jp

 ウェブサイト:世界遺産平等院京都宇治
ウェブサイト:世界遺産平等院京都宇治

(0-1) ウェブサイトからの事前の情報取得について
ホームページ(ウェブサイトトップ)では多言語表示(日本語、英語、簡体字、繁体字、韓国語)選択が可能になっているが、車いす使用者や聴覚障がい者用の利用情報などは特になく、これらの利用者がどのようにして行けるのか、どこまで見られるのかを把握することはウェブサイトからはできない。

(0-2) 情報について
パンフレットは多言語(日本語、英語、簡体字、繁体字、韓国語)で書かれている。多言語の音声案内は宝物館出入り口のみ用意されている。

 パンフレット:世界遺産平等院京都宇治
パンフレット(部分)

(1) 最寄り駅から宇治平等院までのアクセス
JR奈良線宇治駅から東南の方向に直線距離で約600m程、徒歩で10分程度の場所に位置する。
途中、商店街で駐車している車のため一部通りにくい場所もあったが、道はほぼ平坦であり、平安時代から続く参道やお土産屋を楽しみながら、車いすでも宇治駅から表門まで無理なく行ける。
JR宇治駅にはホームから改札口、改札口から外までエレベーターがあるので車いすでも問題なく電車を使える。駅前には車いす用のバス乗り場もあるが、 平等院行きのバスはない。
京阪宇治駅からも徒歩で10分程度、駅は段差なく直接改札を通り外へ出られる。

地図:JR 宇治駅〜平等院
JR奈良線宇治駅から東南の方向に直線距離で約600m程、徒歩で10分程度の場所に位置する。
古い参道
古い参道

(2) 駐車場について
駐車場は南門向かいにある民営の駐車場、もしくは近隣のコインパーキングを利用する。向かいにある民営の駐車場の収容台数は駐車状況によるが、駐車場総数は普通乗用車で75台~200台、バスで15台~45台程度である。団体客はこの駐車場を使用することが多い。車いす用の駐車場は正門手前に2台分用意されている。

南門前駐車場
南門前にある民営の駐車場

(3) 敷地の入り口について
表門から車いすで入場可。構内は砂利敷きになっており、通常の車いすだと移動が困難になる。表門の受付で比較的移動が楽なタイヤの圧が高い車いすの貸出を行っている。(乗り換えを勧められる。)
 砂利道用貸出車いす: 浮輪車いす(ランディーズ)1台(表門) タイヤの圧の高い車いす5台(鳳翔館にて保管)

砂利道用に貸し出された車いす
砂利道用に貸し出された車いす

車いすの場合、南門向かいの民営の駐車場から南門を使って平等院へ入ると段差が無く、鳳翔館を抜けて庭園に出られる経路がある。
他にも、例えば、近隣の高齢者施設から車いすを使用した30-40人の団体がリクリエーションで来るときなどは、緊急車両用の出入り口を使用するという。緊急車両の出入り口は、駐車場に近い上、車両用であるので入り口が広く、段差もなく、またトイレも近いので便利である。ただし、緊急車両が使用するため、車いすで使用するには傾斜がきついので注意が必要となる。

配置
平等院配置図
南門入場口
南門入場口
鳳翔館からのスロープ
鳳翔館からのスロープ
緊急車両用出入口
緊急車両用出入口:高齢者施設等車いす使用者が多い時には出入り口として使用する。傾斜路で段差はないが、急なので注意が必要になる。

(4) 門から玄関までの敷地内のルート・庭園について
鳳凰堂を囲むかたちで回遊式の庭園がある。表門から鳳凰堂正面を回る経路は段差はないので、鳳凰堂正面は一般者と同じ経路を車いすでも通れる。ただし、砂利敷きになっており、通常の車いすだと移動が困難になる。
※砂利が引き詰められている理由:
・土を固め、たたきのようにしたものは、年間150万人の入場には耐えられない。
・石敷きにするという案もあるが、これからの検討事項とのこと※平安時代は1.2m下がりの石敷きだった

回遊式庭園経路
回遊式庭園経路
敷き詰められた砂利
敷き詰められた砂利

(5) 建物入り口について
平等院のメインとなる鳳凰堂であるが、鳳凰堂入り口階段が急であることなどを理由として、車いすでの内部拝観は不可ということである。盲導犬同伴の拝観も不可となる。

鳳凰堂(国宝)
鳳凰堂(国宝):階段が急であるという理由で内部は車いすでは不可

(6) 建物内部について
※車いすでの入館不可

(7) 他施設について
2001年に平等院ミュージアム鳳翔館が完成した。景観を守るため、鳳凰堂を眺める際の視線から外れる場所に一部上がったもとの地形を利用して、その地形ににとけこむように埋められたかたちで2階建ての建物が建てられている。平等院に伝わる様々な宝物類を保存・展示してある他、鳳凰堂内部の映像が見られるようになっている。
鳳翔館は庭園から段差無く入れるようになっている。エレベーターが設置されているので、車いすでも2階へ上がれるが、一般者の経路とは離れた場所に設置されている上、使用する際は係員へ申し出が必要となる。これは一日5000人ほどの観光客の経路を一方向にするためだという。

鳳翔館入り口
鳳翔館入り口:庭園から段差なく車いすで入れる

(8) トイレについて
回遊式庭園の途中に多機能トイレが2ヶ所・鳳翔館内に1ヶ所、授乳室は鳳翔館内に1ヶ所設置されている。北側トイレは車いす・手摺り・オストメイト・オムツ替えが、南側トイレは車いす・手すりが設置されている。これらは2003年に設置された。
鳳翔館のトイレは2階に1ヶ所あるが、一般の人は使用できない。必要な時は係員へ申し出が必要となる。エレベーター使用と同様、観光客をさばくためだという。
授乳室は当初設置はなかったが、鳳翔館前の休憩場所の一部屋を必要時に使用できるようになっている。

トイレ位置
トイレ位置
授乳室
授乳室:乳室として当初設置はなかったが、鳳翔館外の一部屋を必要時に使用できるようになっている。

(9) レストラン・土産物店について
車いすでも問題なく入れる。

レストラン入り口
レストラン入り口

(10) 団体の受け入れについて
高齢者団体、障がい者団体、特別支援学級の受け入れをするという。こうした団体の受け入れについてはウェブサイトなどに記載はない。問い合わせがあった場合のみとなる。
来訪者数が多い為安心できるよう、知的障がい者などの団体客は開門前に見学時間をつくるなどして、時間をずらすこともあるという。

(11) バリアフリー設備の貸出等について
・砂利道でも使用可能な車いす「ランディーズ」を1992(H4)年に購入:乗り換える人は多い
・砂利道で比較的動きやすい普通車いすの貸出有り

(12) バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化対策について
平等院に携わる人全体で、マンパワーで対応というのが方針となっている。
受付、案内には約60名程の職員(パート含め)がおり、マニュアルもあり、また、随時、オリエンテーションなども行い全ての職員が対応できるように努めているという。

(13) バリアフリーに関する他の寺社との情報交換について
行政間に壁があるため、京都市内などの他の寺社仏閣とのバリアフリーに関する情報交換などはあまりないという。

宇治上神社
菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)、応神天皇、仁徳天皇を祀る。本殿は日本最古の神社建築。

宇治上神社鳥居
宇治上神社

(0-1) ウェブサイトからの事前の情報取得について
宇治上神社が開設のウェブサイトはない。京都府が世界遺産として紹介しているサイトはあるが、バリアフリー情報などはない。(http://www.pref.kyoto.jp/isan/ujigami.html)

(0-2) 情報について
パンフレットに関しては多言語表記他不明

(1) 最寄り駅から宇治上神社までのアクセス
京阪宇治駅から宇治上神社まで徒歩約10分。
この日は平等院から歩いていった。平等院側からの道中で渡る橋の階段が急であるため、車いすは4人掛かりで持ち上げて上った。電動車いすなどの場合はこの橋を避けて宇治橋まで出て、対岸へ渡る。
一般の参拝客は宇治神社を拝観してから横の「さわらびの道」を通って宇治上神社へ行くとよい。ただし、宇治神社は正面から本殿までの間に階段があるので、車いすの場合は迂回する必要がある。「さわらびの道」の緩やかな上り坂経由で宇治神社に側面から入れる。そこを通り過ぎて「さわらびの道」をそのまま進むと、宇治上神社まで行ける。

平等院〜宇治上神社
平等院〜宇治上神社:遊歩道の階段のある橋か宇治橋へ廻って川を渡る
橋の階段
中州にある橋の階段:反対側はも少し緩やかで段も少ないがやはり階段がある
宇治神社・宇治上神社への迂回道
宇治神社・宇治上神社への迂回道:川沿いに迂回して途中から一本入った「さわらびの道」へ

(2) 駐車場について
一般用の駐車場があるかは不明。車は上がってこられるので、歩行困難な人などはタクシーなどで神社前まで来られる。

(3) 敷地の入り口について
宇治上神社表門には段差があるが、横から段差なく入れる。但し、本殿に行く手前には一段段差がある。電動車いすは難しいが、手動車いすは担いでここを越えれば後は本殿前まで行ける。

宇治上神社正面の門
表門には段差がある
宇治上神社横の入り口
横から段差なく入れる
拝殿
拝殿の両脇から後ろの本殿に進むが、どちらも一段の段差がある
境内略図
境内略図
本殿
段差を越えれば本殿前まで車いすでも行ける

(4) バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化対策について
世界遺産に登録されるまではあまり観光客が訪れるような場所ではなく、登録されたことで注目され始めた神社である。現在、バリアフリーに関する取り組みなどはされておらず、今後もされる様子もうかがえなかった。
しかし、手動の車いすで介助者がいる場合(人的補助がある場合)は、日本最古の神社建築である本殿前まで行くことができ、車いすでも十分楽しめるのではないか。

宇治の観光ボランティア
(公社)宇治市観光協会により、宇治観光ボランティアガイドクラブが組織され、ボランティアガイドを積極的に行っている。当ボランティアガイドクラブは宇治市内のバリアフリーに関する調査を行い、「宇治観光福祉マップ」が2007年に作成されている。
調査対象は、「JR宇治駅、京阪宇治駅とその駅前広場、観光の中心となる宇治川周辺と、世界文化遺産の平等院、宇治上神社をはじめ、宇治市源氏物語ミュージアム、源氏物語「宇治十帖」古跡、興聖寺、三室戸寺、観光センター等」で、「宇治観光福祉マップ」には各観光寺社並びに施設のバリアフリー詳細情報が19箇所他、源氏物語「宇治十帖」古跡のバリアフリー情報も細かく記載されている。各施設情報は「交通機関にともなう主要駅、公共施設や観光寺社、古跡のバリアフリーに関する情報欄とその略図のページ」から構成され、「階段」「エレベーター」「トイレ」「駐車スペース」「車いすでの入館方法」「盲導犬動向に関する情報」「貸し出し情報」などの詳細情報が書かれている。設備の紹介については記号が使用されるなど、見やすい資料の工夫がされた冊子になっている。
ボランティアガイドは、宇治観光ボランティアガイドクラブに1週間位前までに連絡して申し込めば無料(ただし交通費としてガイド1名につき1000円が別途必要)で案内してもらえる。当日の申し込みについても JR宇治駅前市民交流プラザ1階にて受付ており、可能な限り対応してくれるようだ。ボランティアだが案内は詳しくて話も面白く、車いすや視覚障害者のガイドの研修も受けており、午前9時から午後5時まで1回に付き4時間以内の案内のほか、平等院の立体敷地図や宇治上神社の特筆すべき神社の構造が分かるような模型、特殊なインクを用いた触れる絵などが作成されており、視覚障がいの方を含めたすべての人が文化財を理解でき、楽しめるような工夫がされている。
 宇治市観光協会  http://www.kyoto-uji-kankou.or.jp
 宇治観光ボランティアガイドクラブ  http://www.kyoto-uji-kankou.or.jp/guide/index.html
 宇治観光福祉マップ  http://www.city.uji.kyoto.jp/0000014546.html

平等院立体敷地図
平等院立体敷地図
宇治上神社模型
宇治上神社模型:拝殿、本殿の模型は屋根を外すと内部がわかるようになっており、本殿は内部の見えない三つの社も作られていて、触るだけでなく視覚的にも楽しめる。
特殊なインクで印刷した触れる絵
特殊なインクで印刷した触れる絵で、仏像などの形を触知できるようにしている。

2016年4月15日

重要文化財のアクセシビリティ1

丹羽太一

重要文化財とそれに関連する建物のアクセシビリティに関する調査について
共同研究者:髙橋儀平(東洋大学教授)、丹羽菜生(一級建築士事務所 BASSTRONAUTICS ADMINISTRATION)

 この研究の目的は、観光資源としての重要文化財の活用を充実させるべく、単に物理的な対応だけでなく、その所有者の理解を得られる様々な解決策を取り入れた、文化財の保存・保護と共存するアクセシビリティガイドライン作成のための基礎資料を構築することである。

 例えばイギリスでは、差別禁止法などをベースに作られた平等法 (The Equality Act 2010) によって、歴史的建造物保護規定に反しない限りで、歴史的建造物にも合理的配慮が必要となっている。文化財保護団体である Historic England によって、歴史的建造物にどのような合理的配慮をする必要があるか、ガイドラインによって示されている。日本でも差別解消法の施行により、このような観点から文化財のバリアフリー化が進められるものと思われる。

 2020年の東京オリンピックパラリンピック開催に向け、海外から多くの観光客を迎え入れることが予想される。そのため訪れる誰もが楽しめる観光施設環境の整備は喫緊の課題である。特に、日本の歴史的・伝統的な文化財は海外に誇るものであり、多くの観光客の来訪が見込まれる一方で、車いす使用者を始め、高齢者にとっても見学が不自由なところが少なくない。歴史的建造物の全てをバリアフリー化するというのは、文化財固有の価値を基本に、制度面、資金面、デザイン性、所有者の意向など様々な要因から困難が予想される。しかしながら国内のみならず海外からの観光客も多く、それらの観覧を出来るだけ多くの人にとって可能なものにすることは必須の課題であるといえる。

 本研究では、観光利用となる文化財を前提として次の調査を行った。
①歴史的建造物保存地域、及び、それ以外の地域にある文化財を対象として調査を行うことによって、包括的に捉えられてこなかった文化財の物理的なバリアフリーに関する現状把握。
②調査対象とした各文化財において、物理的バリアフリーが達成されない場合の人的、あるいは代替的な個々の具体的な対応事例の調査。
③実際に障害のある当事者や介助者と共に現状調査し、保存と共存するアクセシビリティの可能性の考察。

 2015年4月〜7月までの間で、対象とした重要文化財は次の12件の都内にある近代以降の文化財である。

【A】
[1] 文化施設 :(ⅰ) 旧東京科学博物館本館、(ⅱ) 旧東京帝室博物館本館 、(ⅲ) 国立西洋美術館本館、(ⅳ) 表慶館
[2] 官公庁舎 :(ⅴ) 旧近衛師団司令部庁舎、(ⅵ) 法務省旧本館 
[3] 商業・業務 :(ⅶ) 日本銀行本店本館、(ⅷ) 明治生命保険相互会社
【B】
[4] 住居 :(ⅸ) 旧岩崎家住宅 、(ⅹ) 旧朝倉家住宅
【C】
[5] 宗教 :(ⅺ) 日本ハリストス正教会教団復活大聖堂
[6] 学校 :(ⅻ) 自由学園明日館
(※ [1]~[6]の区分方法は文化庁データベースに従う。【A】【B】【C】は用途系統により区分)

 この12件を対象に、
① 情報発信に関する調査、②アンケート調査、③ 現地調査、④ 聞き取り調査
を、行った。

①情報発信に関する調査
HP にバリアフリー情報を掲載している文化財は以下の6件であった。
[1] 文化施設 :(ⅰ) 旧東京科学博物館本館、(ⅱ) 旧東京帝室博物館本館 、(ⅲ) 国立西洋美術館本館、(ⅳ) 表慶館
[2] 官公庁舎 :(ⅴ) 旧近衛師団司令部庁舎
[5] 宗教 :(ⅺ) 日本ハリストス正教会教団復活大聖堂
②アンケート調査
アンケート回収は次の4件(回収率33.3%)であった。
[1] 文化施設 : (ⅰ) 旧東京科学博物館本館 (ⅲ) 国立西洋美術館本館
[4] 住居 : (ⅹ) 旧朝倉家住宅
[6]学校 : (ⅻ) 自由学園明日館
③現地調査
現地調査は12件すべて行った。
④聞き取り調査
アンケート回収のうち、次の2件の聞き取り調査を行った。
[1] 文化施設 : (ⅰ) 旧東京科学博物館本館
[6]学校 : (ⅻ) 自由学園明日館

①情報発信に関して

[1] 文化施設:(ⅱ) 旧東京帝室博物館本館(現、東京国立博物館)
 現、東京国立博物館の (ⅱ) 旧東京帝室博物館本館、(ⅳ) 表慶館は、言葉によるアクセスマップ、正門周辺から各館内の情報の他、多言語表示(英語、中国語(简体中文、繁體中文)、韓国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語)などの情報を含み、物理的な障がい者だけでなく、視覚聴覚障がい者、妊婦、外国人観光客などの多様性に対応している。

言葉によるアクセスマップ http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=200
触知図 手でさわって感じる本館の案内図 触って楽しむ本館案内図デビュー
東京国立博物館
本館フロアマップ例

東京国立博物館 バリアフリー情報 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1234

[1] 文化施設:[2] 官公庁舎:(ⅴ) 旧近衛師団司令部庁舎 (現、東京国立近代美術館工芸館)
 現、東京国立近代美術館工芸館のHP には、バリアフリー情報としては必要最低限だが、現地に行く前に確認するのには役立ちます。

東京国立近代美術館工芸館
工芸館フロア図とバリアフリー設備のご案内

東京国立近代美術館工芸館 バリアフリーのご案内 http://www.momat.go.jp/cg/visit/accessibility/

②アンケート調査、③現地調査、④聞き取り調査 結果

【A】: [1]文化施設、[2]官公庁舎、[3]商業・業務施設

[1] 文化施設:(ⅰ) 旧東京科学博物館本館(現、国立科学博物館)
建築:1931 年、重文指定:2008 年、独立行政法人化:H13(2001)
所有者:独立行政法人国立科学博物館、設計者:文部省大臣官房建築課)
 改修:2005〜2007年(その際バリアフリー対応始める)


国立科学博物館

国立科学博物館
フロアマップ

バリアフリー対応内容(※近隣の美術館・博物館と情報交換あり)
 ・全てのエレベータ:音声案内と点字が設置
 ・常設展には視覚障がい者用点字が設置
  (※企画展など期間限定の展示物に対しては十分に用意することは難しい)
 ・館内パンフレットは、4カ国語表記で製作
 ・知的障害などの団体受付対応あり
 ・HP上にはバリアフリー情報の記述があり
 ・Googleマップストリートビューによりバーチャル博物館を体験することが可能

国立科学博物館 バリアフリー情報 http://www.kahaku.go.jp/userguide/access/accessibility/index.html

[3] 商業・業務 :(ⅶ) 日本銀行本店本館
建築:1896 年、重文指定:1974 年
石及び煉瓦造、建築面積2,684.6㎡
三階建、地下一階、鉄板及び銅板葺、正面・回廊及び中庭附属


日本銀行本店本館

日本銀行本店本館
入り口仮設スロープ

日本銀行本店本館
日本銀行本店本館
日本銀行本店本館
1階に上がるために仮設リフターを設置(雨天時は使用不可の為隣接する新築棟からの入館)

 [2] 官公庁舎:(ⅵ) 法務省旧本館
1895年竣工 / ヘルマン・エンテ、ヴィルヘイム・ベックマン
1991~1994年創建当時の姿に復原、重要文化財指定:1994年


法務省旧本館

展示室へは職員用のエレベータを使用する。
展示室に直接行くことは出来るが、重要文化財としての建物を楽しむのであれば、経路に工夫が必要

法務省旧本館

避難待機場所にもなるバルコニーにはスロープが設置。(内部撮影不可)

【A】: [1]文化施設、[2]官公庁舎、[3]商業・業務施設 まとめ

 近代化以降に、国によって作られた文化施設や官公庁舎、近代化の象徴となった商業・業務施設などのこれらの施設は、建築当初からエレベータが設置されている場合も多く、車いす使用者は建築当初に設置された職員用のエレベータを使用して展示室へ案内される例もある。

 ただし、これはバリアフリーという概念により設置されたものではないので、階段途中に停止階があったり、他にも色々な箇所で段差があったりするが、特に、独立法人化した美術館博物館などは、重文指定以前の耐震改修や改装を行う際にエレベータや自動扉を設置したり床段差を解消するなどの措置が取られている。

 このようにバリアフリー改修された施設では、一般者と車いす使用者では経路に多少の差があるものの、ほぼ全ての範囲で見学は可能であるが、建築当初に設置された職員用エレベータを使用して展示室階まで直接行く施設では、文化財としての建物を楽しむ場合には経路に工夫が必要だと感じた。

 上野に集まる東京国立博物館や科学博物館、西洋美術館などの国の大型の博物館や美術館は近隣で情報を交換しているという。ホームページを含み、バリアフリーに関して、かなり配慮が進んでいる。こうした取り組みは地方の美術館などへも情報が提供されているようで、より一層充実されていくのではないだろうか。

【B】:[4]住居系施設

[4] 住居 : (ix) 旧岩崎邸住宅

所有者: 国(文部科学省)管理:東京都、1896年頃建設(岩崎久彌旧宅)
洋館・撞球室(ジョサイア・コンドル設計)和館:重要文化財指定 1961 年、1969 年


旧岩崎邸住宅

旧岩崎邸住宅
車いす駐車場使用者連絡用インターフォン

門から建物まで急な坂であるため、車いす使用者は車で上まで上がることが出来る。門には車いす使用者用にインターフォンがある。

旧岩崎邸住宅
一階入り口階段は仮設スロープ設置
タイヤは係員により雑巾で拭いて入館

車いす使用者は洋館一階のみ見学可能

[4] 住居 : (x) 旧朝倉家住宅

(所有者: 国(文部科学省)管理:渋谷区役所)
東京府議会議員朝倉虎治郎が自宅として建設 大正期和風建築
大正8 年(1919) 建設 、重要文化財指定H16(2004)


旧朝倉家住宅

旧朝倉家住宅
玄関
室内用車いす

旧朝倉家住宅
畳張りの廊下

旧朝倉家住宅
絨毯の間

室内用車いすが用意されていたが、玄関から1階床までの上がり框が高く、歩行が出来ない車いす使用者を乗り換えさせるのは極めて困難。タイヤを拭き、カバーを付けることで今回は特別に内部見学を許可してもらった。絨毯の間は車いすで入ることは可能だったが、畳室へは不可。2階へも階段が急であることなどで不可。

【B】:[4]住居系施設 まとめ

 木造住宅の場合、玄関の上り框が高かったり、間口が狭いために玄関から1階床までのスロープの設置や、新たなエレベータの設置といったバリアフリー化が難しいのが現状である。床が畳であったり、階段が急であったりするために、内部の見学も制限されることが多い。
 また、日本家屋の伝統的住宅様式から靴を脱ぐという見学行為になることで、車いす使用者の入館に難色を示す場合もある。車いす使用者が入館する場合、
 (1)車いすを乗り換える
 (2)車いすのタイヤにカバーを付ける
 (3)車いすのタイヤを拭く
 (4)一部入館を禁止する などの条件が示される。
これは、管理者というよりも施設所有者次第になることもあり、今後の課題になる。

【C】:[5]宗教施設、[6]学校施設 の小中規模の施設など

[6] 学校施設:(ⅻ) 自由学園明日館

(学)自由学園(株)婦人之友社、株式会社自由学園サービス
フランク・ロイド・ライト設計:プレイリースタイル
大正10(1921) 建設(羽仁吉一・もと子夫妻が創立)
重要文化財H9(1997)、平成13(2001) 保存修理完成


自由学園明日館

自由学園明日館
2階食堂へのエレベータールート

自由学園明日館
1階ホールへは3段の階段があるが、係員により仮設スロープを設置

自由学園明日館
2階へは厨房用エレベーターで上がる

自由学園明日館
2階食堂へは厨房を抜けてくる

自由学園明日館
スマートフォンガイドの案内

自由学園明日館

1999年の保存修理時に車いす使用への対応に関する内部協議が行われた。

車いす使用者への対応は
(1)車いす使用者の来館時に全ての係員に無線連絡
(2)1階への階段には仮設のスロープを設置
(3)2階へは増築された厨房棟エレベーターによる利用案内
など、各箇所で適宜必要となる補助を行うようにしている

[5] 宗教:(ⅺ) 日本ハリストス正教会教団復活大聖堂

ジョサイア・コンドルが実施設計
1962年6月21日、国の重要文化財に指定された[3]。

ニコライ堂
車いす経路

【C】:[5]宗教施設、[6]学校施設 の小中規模の施設など まとめ

 小中規模な施設の場合、公共的な性格を持つことも多く、元々、不特定多数が使用することが想定されている為、住居系施設と比べるとバリアフリー化しやすい場合が多いが、内部にエレベータを新たに設置するのは難しいこともある。

 車いす使用者は搬入用出入り口のスロープを使用して中に入る、もしくは、増築部分に業務用に設置したエレベータを使用して2階へ上がるなど、それぞれの施設で工夫がされている。

 施設自体の観覧を目的としているのではなく宗教施設や文化施設として使用しているような文化財は、高齢者を含む車いす使用の利用者に対応するため、バリアフリー化が完全に行われているとは言えないが、必然的に車いす使用者などへの配慮が進んでいるものと考えられる。

【考察】  すべての障がい者が重要文化財の公開情報を事前に得られるように、HP 等の充実が望まれる。
 障がい者用駐車場の有無、どの範囲まで車いす使用者も見学可能なのか、どの部分が見学が出来ないのか、人的補助の有無、介助者同伴の必要性、車いす乗り換えの有無等の明確な記載が必要である。
 また、保存・保護の為に歴史的価値を損なうと判断され車いす使用者が観覧できない内部のバーチャルリアリティの展示も有効に活用することが必要になる。

■バリアフリー設備の設置に関して

 建物内部にエレベータを設置する場合、科学博物館などのように重文指定前であれば、設置することも可能だが、指定後は文化財保護法により難しくなる。
 明日館は、重文指定後に壁を一部撤去することにより増築棟から重文への動線を確保している。明日館のように文化施設やレストランを営業するという動態保存スタイルに合わせた改修方法は、今後の他施設改修の一つの方向性として活かすべき事項と考えられる。

 文化財の管理又は修理に要する経費について国が行う補助の項目は、修理工事・防災工事・耐震対策工事などであり、バリアフリー対策に関する工事項目は設けられていない。バリアフリーを目的に、エレベーター棟などを新たに設置するような場合なども含めて総合的な補助金の仕組みづくりが今後の検討課題となるであろう。

【今後の課題】

 差別解消法の合理的配慮との兼ね合いも含め、文化財の様々な形でのバリアフリー化は、今後、より重要な課題になるだろう。
 実際にバリアフリー化する際、問題となるのは保護と改修のバランスである。個々の事例において保護の範囲と改修の水準は、十分、議論・検討する必要がある。
(改修の水準:設備の固定・仮設の選択、意匠や景観への影響、増築やその場所の検討など)
 文化財だけでなく交通を含めた全体のアクセシビリティの確保について考えることは町全体の発展にも繋がる。
 当然であるが、ガイドライン作成にあたっては、当事者参加が重要である。既存のバリアフリー対応となっている重文の活用例を参考として、まだ対応していない事例も併せ、今後も時代や障害の範囲を広げて詳細に調べていくことが重要だと考えている。

謝辞) 本研究の調査にご協力いただいた、各施設ご担当者様方々には深く御礼申し上げます。

参考文献 ○ 近代の文化遺産の保存・活用に関する調査研究協力者会議 建造物分科会関係:平成7年10月16日
○ 「文化財のアクセスとバリアフリー(研究討論会(1))」、福祉のまちづくり研究 5(2), 27-30, 2004-01-31、一般社団法人日本福祉のまちづくり学会
○ 苅谷 勇雅:「文化財建造物 保存と活用の新展開」、政策科学15(3)、pp.57-76、2008.03、立命館大学政策科学会
○ 草薙威一郎、黒嵜隆、他:建造物の文化財とバリアフリー化,日本福祉のまちづくり学会第5回全国大会概要集,2003

2015年8月 福祉のまちづくり学会発表資料より

2015年12月25日

東京都障害者総合スポーツセンター見学記

丹羽太一

12月25日、REASE 松井と車いすを使用するスタッフ2名で、横浜ラポールに続き、東京都北区にある東京都障害者総合スポーツセンターを見学しました。
東京都障害者総合スポーツセンター

サービス推進室の方と実際に現場で指導をしている指導員の方より案内を受け、施設内を見学しました。最後に質疑にも応じていただきました。

リフト付き送迎バスが池袋、西巣鴨、王子から出ており、車いすでもアクセスしやすくなっています。
送迎バス
池袋から車いすで利用しましたが、乗務員の方も慣れており、他に何名か通っている利用者も同乗していました。
十条駅からは、点字ブロックをたどって行けるようになっていました。帰りにそれをたどって駅へ向かってみましたが、一カ所横断歩道で二方向に分岐しており、そこで間違えなければあとは一本で駅までたどりつきます。
医療センターと隣接しかなり大きな、余裕のある施設です。

年間利用者は約20万人、主に障害者のための施設として、利用登録されている身体・知的・精神に障害のある方と、その介助者やボランティアのヘルパーの方が利用されています。宿泊以外は無料です。
見学した日は、車いすの利用者があまりいない印象でした。
運営は東京都の指定管理者として、東京都障害者スポーツ協会が行っています。


施設概要

プール
プールは25m6レーンで1レーンは浅くなっています。階段で入るようになっていますが、車いすでそのまま入るスロープやリフトはありません。ただし、周囲は車いすの高さまで上がっていて、車いすからプールサイドへの移動はしやすくなっています。
屋内温水プール

卓球は、横浜ラポールと同様、ここでも人気でした。サウンドテーブルテニスは別室に一つ用意されています。
実際にプレイしている視覚障害の方がいたので、横で目を閉じて聞いてみましたが、音だけで玉の動きに反応するのは難しいと感じました。
卓球室・サウンドテーブルテニス室

体育館はバスケット一面で、バレーボール、バドミントンなども行っています。車いすで個人練習している人も2、3人いました。
体育館

体育館に続くトレーニングルームには一般的なトレーニングマシンの他、車いすで使える手こぎ・足こぎエアロバイク、立位の取れるマシンもあります。
トレーニング室


車いすで使えるトレーニングマシン

屋外にテニスコートが2面あります。実際に競技用車いすのかなり上級者が、試合形式で車いすのペアと車いすと聾の方のペアでプレイしていました。
テニスコート

アーチェリー場は50mの屋根付きです。ここでも何名かの車いす競技者と立位の競技者の方が練習中、かなり上級の方達でした。
アーチェリー場


ゲートボール場としてつくられた広場もありますが、他の目的では使いにくい広さで、活用方法を思案中ということでした。
スポーツ広場

グラウンドは200mトラック、100m直線も取れる広さです。投擲も、ジャンプもできるようになっています。


ここではレース用車いすも借りられますが、トラックが公式よりも小さく、最近は競技者は一般の400m陸上競技場に流れているようで、走っている人はいませんでした。
運動場


車いすの車輪を洗うことができます

建物には宿泊施設があり、洋室と和室が選べます。
宿泊施設
洋室は低めのベッドで車いす用になっています。


和室は畳部分が車いすの高さで、車いすから移動しやすくになっています。


浴室が2つあり、小浴場は車いすでは入れませんが、大浴室は2つの出入り口があり、一つの浴槽に両側から入るようになっていて、一方は車いすの高さに合わせた洗い場に直接入れるようになっています。


広報はサイトが主な手段となっていますが、ツイッターでのお知らせもしています。
ツイッター
年間を通じて初心者向けのスポーツ導入教室や、継続して練習するためのスポーツ教室、大会や地域交流などの様々なイベント、教室を開催しています。
平成27年度事業
また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、障害者のスポーツを体験するイベントにも力を入れているようです。

障害者のスポーツも、最近は認知度が徐々に上がり本格的なスポーツとして捉えられ始めて、そのための環境はどんどんよくなっているような印象ですが、その反面、地域で誰もが楽しめる、レクリエーションとしてのスポーツ環境、またボトムアップという意味で、裾野を広げるというような役割も含め、この施設のようなセンターが改めて見直される必要もあると感じました。

近く改修工事もあるとのことで、本格的な設備はもちろん、障害の有無に関係なく、身近にスポーツをやれるカジュアルな場所として、スポーツの魅力に接する機会が多くなるような、地域の交流拠点のひとつとしての総合スポーツセンターの機能をますます強化していっていただきたいと思います。
さらに、一般の人が障害者の方と普通に接する機会が増えるような、ユニバーサルなコミュニティとしての機能も充実していくことを願っています。

2015年6月26日

横浜スポーツセンター見学記

丹羽太一

6月26日、REASE 松井と車いすを使用するスタッフ3名で、横浜市港北区にある障害者スポーツ文化センター横浜ラポールと、隣接する日産スタジアムを見学しました。
両施設への公共交通機関でのアクセス状況の他、スタジアム観客席の車いすでの利用しやすさを実際に体験。スポーツセンターではスポーツ事業課課長より施設の活動の説明を受け、施設内を見学。地域のスポーツセンターとしての活用のなかで障害者にも参加してもらい、必要な部分は専門家として支えていく、という活動の考え方、実際に車いすや視覚障害、高齢などの方の使用の仕方を見聞し、体験しました。

背景

平成23年8月施行のスポーツ基本法では、「スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない。」とされ、文部科学省は、平成24年3月にスポーツ基本計画を策定、「年齢や性別、障害等を問わず、広く人々が、関心、適正等に応じてスポーツに参画することができる環境を整備すること」で、障害者のスポーツを推進していく、としています。

公益財団法人日本障がい者スポーツ協会は地域における障がい者スポーツの振興事業として、「都道府県・指定都市の障がい者スポーツ協会が、身近な地域において障がい者がスポーツに参加できる環境づくりを目指し、障害者スポーツ指導者や関係団体と連携して、障がい者向けのスポーツ教室や障がい特性を踏まえたスポーツイベント等を開催し、障がい者が自主的・積極的・継続的にスポーツに取り組むことができる体制づくりの構築を目的に実施する。」(日本障がい者スポーツ協会 平成26年度 事業計画書)として、地域での活動を推進しています。

REASE では、障害者のレクリエーションとして、スポーツを見たり体験したりする機会がどのくらい求められ、実際に楽しまれているか、それが充分に要望を満たしているか、さらにスポーツ体験がどのように継続され、それが競技への興味に繋がっていくか、競技として、障害者のスポーツがどのように認知され、その活動が深化していくか、など、障害者とスポーツの関わりの実際を調べ、それが地域にとってどのような効果をもたらすかを考えてみたいと思っています。

施設見学

日産スタジアム
日産スタジアム(旧名称:横浜国際総合競技場)は、国土交通省(当時建設省)が事業を進める「鶴見川多目的遊水地」の上部を利用して、横浜市が横浜総合運動公園整備事業の中で、その公園の中核施設として建設されたものです。平成6年1月に競技場建設に着手し、平成9年10月に竣功、10年3月にオープンしました。
http://www.nissan-stadium.jp/stadium/history.php
2002年サッカーワールドカップの日本戦や決勝戦の会場となり、現在横浜 Fマリノスのホームグラウンドとして使用され、陸上やラグビー、イベント、コンサートも行われているようです。

最寄りの駅は新横浜か小机になりますが、どちらもエレベーターがあります。
(ちなみに新横浜へのルートのひとつ、東横線菊名から JR 横浜線への乗り換えは平成29年度完成予定のエレベーター工事中で、この日は階段昇降機2回使用でした。)
新横浜駅からのルートは、途中より専用の幅の広いの歩道橋で3階レベルのゲート広場まで緩い勾配を上っていく(http://www.nissan-stadium.jp/access/shinyokohama.php)ことができ、さらにエントランスの4階レベルまでスロープで上がることができるため、車いすでのアプローチも可能です。
小机駅からのルートは、高速をまたぐためかなり複雑にスロープ状の歩道橋をのぼりつづけ、スタジアム前は1階レベルへのアプローチなので、エントランスの4階レベルまで場外エレベータを利用する必要があり、分かりにくいかも知れません。

スタジアムは不定期に、ボランティアによるガイドつき見学ツアーを主催していますが、車いすで参加する場合はルートが異なるため、申込時にその旨伝えておく必要があります(車椅子参加用電話番号、ファクス番号があります)。
http://www.nissan-stadium.jp/tour/index.php
今回はそのツアーに申し込み、単独グループでの見学となりました。

スタジアム東ゲート前にショップがあり、そこにも多目的トイレがあります。4階東西にメインゲート、南北にサブのゲートがあります。
東ゲートの4階レベルからコンコースに入り、一周しながらバックスタンドとメインスタンドの観客席を見ます。客席スタンドは二層式の72,327席、東西南北に6ヶ所ずつ計24ヶ所の客席入口があり、スタンド1階席1層目の最後列(18列)後ろの通路へステップフリーで入場することができます。


コンコースから客席1階最後列への入口

車いす席、聴覚障害用磁気ループ席の案内表示も

24ヶ所の客席入口中 VIP シート前などを除く21ヶ所それぞれに7席ずつ程度の車いす専用スペースがあり(常設147席)、車いす席数の全体席数に対する割合は常設0.2%になります。(ホームページには臨時対応485席とあるので、臨時対応時で0.67%となっていますが、その際の配置は分かりません。)車いす席前の席は一段低く、サイトラインは確保されており、パイプ椅子による同伴者席提供で、区切り線などは特にないため、横に介助者が並んだり、車いす同士で並んだりのアレンジは可能です。屋根は19列以後なので雨天時はレインコートが必要でした。(磁気ループ席もあるのですが、場所、範囲詳細は分かりません。)


入口を出るとその前が車いす席

コンコースには5階の1階席2層目後方通路へのスロープが2ヶ所、エレベーターはゲート間4ヶ所に場内客席用は各1機ずつ計4機、それぞれ20人乗がありますが、常設車いす席の場合はどれも使う必要はありません。
4階レベルコンコース1周でトイレは9ヶ所、多目的トイレは男女別ですがそれぞれにあるようです。一周の点字ブロックはありません。


4階コンコースから5階へのスロープ

ツアーでは2階のバックヤード―関係者入口、ロッカールーム、ウォーミングアップルームなど—も車いすで見学、3階レベルにあるピッチ/フィールドへもスロープで上がれるようになっていますが、陸上競技用の大型の車いすなどは折り返すスペースが少し小さい可能性もあります。


フィールドへのスロープ

場内売店はコンコースにあるので利用できるようですが、見学時は閉まっているのでカウンターなどの車いす対応は未検証です。中2階にある、平日も営業のレストランへはアクセスルートがないとのことでした。

障害者スポーツ文化センター 横浜ラポール  (9月3日 情報一部訂正がありました。お詫びして訂正いたします。)
障害者スポーツ文化センター横浜ラポールは、障害者の「完全参加と平等」の実現という国際障害者年の理想に基づき、その機運の中、横浜市内の障害者団体の長年の要望や、既に開所していたリハビリテーションセンターとの連携を計画し、「国連障害者の10年」の最終年である平成4年8月28日に開館にいたりました。
障害者がスポーツ、レクリエーション、文化活動を通じて、健康づくりや社会参加の促進をはかるとともに、市域における中核施設として、障害者が主体的に参加する中から市民交流を活発に行ない、この活動を広く発展させていくことを目的としています。
 —横浜ラポールについて http://www.yokohama-rf.jp/rapport/guide/index.html

となりにある横浜市総合リハビリテーションセンターと共に、横浜市の指定管理者として社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団が運営しています。同様のスポーツセンターは全国に25ヶ所という説明でしたが、スポーツ施設と文化施設がひとつになった施設は全国でも珍しいのではないかということです。

新横浜駅から、車いすが3,4台乗れるリフト付きシャトルバスがあり、運転手とは別に、リフト操作や車いすなどの座席案内をする方が一人乗車しています。

最初に、スポーツ事業課課長にわかりやすく施設の説明をして頂き、施設を実際にまわった後、ふたたび課長が質疑に応じて下さいました。

文化施設、スポーツ施設合わせて利用者年間は約45万人、一日平均1,300人程が利用しているとのこと。当初は障がい者3割、一般7割でありましたが、5年目でその割合は逆転し、現在は障がい者7割、一般3割の利用となっておりますが、障害者のための施設としてだけでなく、「ノーマライゼーションの推進の拠点」として活用してもらいたいという考えは現在も活かされているように思います。年間維持費8億円程度ですが、事業費・光熱費・人件費の全てを指定管理料で賄っています。


施設概要
障害者の利用料はボーリング以外無料です。

トレーニングルーム
 車いすのままで使用できるサイクリング・マシンなどトレーニングマシンが各種あります

体育館と2階のウォーキングコース
 バスケットコート2面分 卓球などもでき、各種スポーツ教室や地域の活動の場としての利用、時間によって利用形態を決めています


平日午後ですが賑わっています

25m/6コース屋内プール 
 施設付属のプール用車椅子に乗り、車いすごとつり下げるリフトでそのままプールに入れます
 プールサイドが一段高くなったところは車いすでアプローチし、そこからプールへ入ります
 視覚障害用のレーンも設けています


ちょうど休憩時間でした
奥にリフトの白いポールがあります

ボウリングルーム
 4レーンで車いす用・障害者用の投擲補助具もあります


視覚障害者用スコア表示もあります

サウンドテーブルテニス室
 アイマスクをして参加する晴眼者もいます

地下グラウンド
 1周160m、2コース分には視覚障害者ランニング誘導マシン・ガイドランナーが設置されており、音でコーナーのタイミングなどを知らせます
 アーチェリー場、ローンボウルズ場があります。


レールからロープが下がっており、


このように使います


屋外グラウンド、テニスコートもあります
奥は日産スタジアム

おもちゃ図書館
 発達障害、知的障害などがあっても遊べる場を提供し、おもちゃの貸し出しも行います

創作キッチン、創作工房
 料理、工作などの教室や地域の活動の場として利用できます


高さ調節可のキッチンのシンクや調理台もあります

施設説明の概要

午後3時頃までは高齢者の利用が多く、それ以降は入れ替わりで若い人が利用、6時以降は社会人が増える、という住み分けがあります。
スポーツに関する情報発信は広報誌「月刊ラポラポ」を発行、ウェブサイトも活用しています。

隣接する、同じ事業母体の運営するリハビリセンターとの連携があり、病院などともつながりがあるため、リハビリとしてスポーツを始める場合はスムーズな対応ができます。
レクリエーションから、本格的な競技スポーツへの興味に対するフォローが必要になる場合、システムとして確立した体制はなく、現状は個人個人を繋いでゆくようなネットワークで対応することが多いといいます。
レクリエーション用/競技用の使用形態については施設として明確な区分はなく、様々な利用者がそれぞれの目的で使えるようサポートするようにしています。

地域における障がい者スポーツの振興事業について、スポーツ教室としてリハビリテーション・スポーツ、水泳、卓球等を行っています。地域支援プログラムとして市内の各区スポーツセンターなどにも出向き、そこでグラウンド・ゴルフ、卓球、ボッチャなどを実施、巡回教室、地域での人材育成研修や自主的なサークル活動の支援等も行っています。

横浜 F マリノス下部の知的障害者のサッカーチームの運営に関わって、そこでは関連企業との連携もあります。トレーニングマシンや装具の開発などでメーカーや専門家と協力することもあります。

2020年パラリンピック開催の関心の高まりと、特にスポーツ基本法によって、厚労省から文科省に管轄がシフトし、障害者のスポーツの環境はよくなってきていると感じます。

障害者がスポーツをするきっかけとしては学校が多いので、一般の先生にも障害者のスポーツの知識を広めることが大切になります。一般のスポーツ指導者が、さらに障害者もサポートできるようになって、だれもがスポーツに接する機会が増えていくことを目指しています。


障害者が地域で楽しめるスポーツの普及ノウハウを蓄積していくのが本来の目的で、障害者スポーツという枠組みでなく、スポーツのなかで専門家として障害者のためのサポートもする、施設も、地域のスポーツセンターとしての活用のなかで障害者にも参加してもらい、必要な部分は支えていく、という考え方で運営しているということです。

まとめとして

国際パラリンピック委員会のアクセシビリティ・ガイドには、「スポーツや運動をすることは、人権であり、全てのひとにその門戸が開かれなければならない。開催都市は、レクリエーション、健康維持、競技、英才教育、どんなレベルにおいても、主なスポーツ活動について、障害のある人の参画を支え、広める必要がある。それは才能、目標、欲求の問題であり、障害のある人がどれだけスポーツに打ち込むかは、自由に選択されるべきである。」(5章 アクセシブル・インクルーシブな都市と競技への旅)と謳われ、そのなかでの主な検討課題として、障害者のスポーツへのアクセス、競技スポーツへのアクセス、アクセス可能な会場、指導、トレーニングと資金、施設や道具、観覧、子供の活動などについて原則や目標などを掲げています。
このガイドは、障害者をとりまくスポーツ環境を考える際には、ひとつのガイドラインとして有効と思われます。
同ガイドでは観覧について、車いす席などの数や仕様についても具体的な数値目標を挙げて、スポーツ観戦のアクセシビリティについて整備を促しています。また、教育されたプロフェッショナルの重要性を説き、その必要性を強調しています。

日産スタジアムについては、車いすでの観戦アクセスと観戦のしやすさは整備されています。ただし、常設車いす席数は、上記ガイドの基準割合には届いていません。(臨時対応で一般スポーツ観覧の基準割合は満たせるようになっているようです。)その他の障害についての検証は、さらに当事者の意見も伺って行う機会をもちたいと思います。

障害者も気楽に参加できるスポーツセンターの可能性について考える上で、二つの意味合いを想定していました。ひとつはスポーツ関連の施設や団体、競技者同士が連携し、レクリエーションから競技までの障害者アスリートをバックアップするシステムを考えていくなかで、地域や自治体、企業も関わってネットワークになることで、障害者のスポーツという分野を活性化し、スポーツをとりまく環境も多様化、活性化させていくという方向。もうひとつは地域に障害者も利用するスポーツの拠点があることで、障害があってもそのまちのなかでお店や施設、交通機関がより利用しやすく変わっていき、さらにイベントや事業もインクルーシブになることで、自治体や企業やお店なども含めた地域全体がまちとしても活性化するという方向です。

横浜ラポールについては、特に障害者のスポーツを一般のスポーツのなかで考え、設備や道具、指導が必要な場合はそれに対応していく、という姿勢で活動し、地域でも、スポーツの世界でも、その先駆者としての役割を果たしたいという自負を感じます。その点で、上記の二つの可能性を、両方とも感じることができる機会となりました。後者のまちづくりの視点では、実際に周辺の商店や飲食店はバリアフリー化が進んだというお話しもありました。前者のスポーツネットワークの方は、この機会に、さらなる今後の発展を期待したいと思います。

アンケートにご協力をお願いします

REASEウェブリサーチ班では、障害者の社会環境を大局的につかむ目的で、今後さまざまなウェブアンケートを行う予定です。
ウェブアンケート第一弾は、 障害者のスポーツの環境調査アンケートです。
障害者の、地域に於ける余暇活動に関する、特に運動施設の活用状況を調べ、地域の障害者のスポーツの振興、競技スポーツの発展の可能性を探る目的で、スポーツを見る、あるいはスポーツをすることに関する、興味、情報の流通、機会、施設や用具の環境、及び意義について、ウェブ上でアンケートを集め、そこから、障害者の社会参加だけでなく、スポーツに関する施設や活動を通じた、障害者と共に考える地域の振興などの具体的な社会活動を考える契機にしていきたいと考えています。

アンケートはこちら

2015年1月16日

フィンランド障害者施設見学記

丹羽太一

2014年夏、フィンランドの身体障害者協会のオフィスに勤める友人を訪ね、その協会の新しいオフィスビルと、協会の運営するいくつかの施設のうちの2つのリハビリテーション・センターを見学しました。

フィンランドでは社会福祉・保健サービスは自治体(市・町)が供給しますが、身体障害者の福祉に関しては、社会福祉法とそれを補完する特別法のうち障害者のためのサービスおよび援助法があり、自治体の住民を対象に自治体の義務として、障害者のケアを行います。 リハビリテーションは、社会保険院、保健行政、教育行政、労働行政、社会福祉行政が行うものがありますが、このうち社会福祉行政のリハビリは、当事者団体が所有し運営するリハビリセンターで、障害や疾病があっても地域で自立して生活するための社会的リハビリ、適応訓練として行われます。そのため、民間の当事者団体などの非営利団体によって運営されているリハビリセンターが数多くあり、自治体や社会保険院の委託で重度の障害者のリハビリを行っています。
参考:「フィンランドの地方自治体とサービスの構造改革」山田眞知子 2010年11月 財団法人自治体国際化協会比較地方自治研究会/「充実した公的福祉制度」JETRO ユーロトレンド 2000.8

今回訪ねた協会も障害者自身が会員で、国、自治体の委託を受けてさまざまな障害者施設や地域活動を運営しているNPOです。

Invalidiliitto = The Finnish Association of People with Physical Disabilities

フィンランド身体障害者協会は1938年に設立された、同国の身体障害者支援・サービスを提供する団体です。
多様な身体障害を対象にし、身体機能に障害がある人のための利益を代表するとともに、彼らにサービスを提供しています。34,000人の会員による165のメンバー・アソシエーションからなる全国規模の組織で、国連の障害者権利条約及び、国の政策に基づき、協会自らの方針を決定し、活動しています。
その役目は、人間の尊厳、自信、勇気と公平を重んじ、それぞれのコミュニティにおいて、身体に障害があっても毎日の生活が自立し、満足なものであるように働きかけることです。

活動資金は主にフィンランド・スロットマシン協会の寄付と民間事業者や個人の支援から得、自治体、病院運営地域、社会保障機関や保険会社から受け取るサービス提供料など、事業運営収入によって関連コストをカバーしています。

障害者支援と機会の平等を保証することを理念とし、社会に働きかけ、メンバー・アソシエーションと地域の活動、訓練やカウンセリングを継続できるよう活動しています。
障害者の機会の平等を、メンバー・アソシエーションや関連団体とともに行う地域活動を通して効果的に実現していきます。地域主導の活動も支援します。これらを、地域のネットワーク、フォーラムや訓練、情報発信や余暇活動を活かして行います。

障害を負った方や、15歳以下の移動困難な障害を持つ子供の保護者はメンバー・アソシエーションに加入します。そこでは、障害者同士をつなぎ、平等に権利を持つ市民として活動する機会を促進し、その権利の実行と彼らの活動の幅を拡げていくことを目的にしています。メンバーはカウンセリングと訓練、文化的創造的な活動、運動やレクリエーション、メンバー同士の活動や支援、外出や旅行などに関してさまざまなサービスを受けられます。メンバー・アソシエーションは障害者スポーツ協会にも加盟しています。

ピア・サポートが協会とメンバー・アソシエーションの活動を支えています。これは、障害者と彼らを支える家族が、自分たちの経験をもとに他の障害者や家族を手助けし支援する仕組みでもあります。すべて自発的で互助的に、無料で行われます。

さまざまなプロジェクトを展開していますが、その中でも2007年に完成したヘルシンキ近郊にあるアクセシブルなオフィスは最も画期的なものです。フィンランドのオフィス環境において、障害者の職場のサポート体制をよりよくすることを目指し、構造的な空間を提供するための先駆けとなることを目的に建てられました。また、オフィス計画の参照例として、障害者雇用のバリアを取り除いていくための、職場環境の一つの見本となるように考えています。だれにとってもよい職場環境となるアクセシビリティを持つオフィスです。
・・・リーフレットより

まず、このオフィスの紹介です。ヘルシンキの一つ北のパシラという駅からバスで20分程の、開発中の新しい街にあります。


入口泥落とし:視覚障害のある人が、外から建物の中に入ったことを足下で確認出来るように内と外で少し違った素材になっています。


受付:車いすでも立っている人でも対応出来る受付カウンターです。


休憩室スペース:それぞれの障害に合った椅子に座れるように、色々な種類の椅子が置いてあります。


デスク:62㎝から128㎝まで昇降可能、机の真ん中についているレバーで簡単に操作することが出来ます。


収納:棚の扉の把手部分は、どこの位置でも手や指が引っかけられ、また、吊り戸になっているので、小さい力で容易に開け閉めが出来るようになっています。引き出しも、小さな力で引き出せるようになっています。車いすで近づけるよう、足下は空いています。


トイレ:右麻痺、左麻痺の人がわかりやすいように、中のトイレの位置がサインに描かれています。


シャワールーム:車いす用のスペースは右麻痺、左麻痺の人がどちらでも使えるよう、すべて左右対称についています。車いすでも使えるサウナもあります。

このオフィスでは、これで全てのことが出来るわけではありませんが、身体に障害があっても全てを頼るのではなく、できるだけ自分で出来ることは自分で出来るように設備が考えられています。障害者の障害というのは、周りの環境によって障害でなくなることがあるというのが、今の考え方ですが、それが先進的にいかされたオフィスでした。
フィンランドの一般企業における障害者の職場環境について質問をしたところ、まだこれからの課題であり、ここを手本に、その充実を国に働きかけている段階だということでした。

the Rehabilitation Centre Lahti

次に、ヘルシンキから北へ約100㎞、特急電車で一時間程度の場所に位置している、人口10万人の街ラハティのリハビリテーション・センターの紹介です。

障害者が、平等で自立した社会の一員として、自分の家で生活出来る環境をつくるための支援を、彼・彼女らの家族も一緒に受けられる、国のリハビリテーション・サービスとして提供しています。生涯にわたってさまざまな支援を続けています。リハビリや適応訓練の他、一時的な滞在や休暇のための滞在などもいつでも受けることができます。
身体と心のケアを合わせて受けられるよう、さまざまな専門家がいます。全国からさまざまな障害を持つ、さまざまな世代の方が来ています。家族と共に受けられるリハビリが重要と考えています。 ・・・リーフレットより

ラハティ・リハビリテーション・センターは、障害者とその家族が、障害を持ったことによる心理的負担からの脱却を目的として、自宅や地域で社会のメンバーとして自立して生活できるようなトレーニングを主に行っています。ここは特に家族ぐるみのトレーニングに力を入れています。

1989年設立、収容人数46人で、障害をもつ赤ちゃんや子供とその家族のほか、様々な身体障害者がフィンランド中から来ているということです。難病で他の施設では手に負えない人や重症の家族と共に生活をする人などのトレーニングだけでなく、生活相談や、性の問題なども含んだカウンセリングも行っているということでした。

機能回復と社会適応の準備コース、個別のリハビリ、一時的なケアサービス、外来リハビリ、余暇の過ごし方のサポートなどを含む、全ての生活に関するサポートを提供し、自分に合った理学療法や作業療法も受けることができます。
コミュニティを基盤に、互助グループのサポートで、自分で選んだ物理的・精神的・社会的リハビリテーションを総合的に行っています。

身体的機能の向上と精神的機能の向上の両者の関係を重視しているということでした。

入居者は1〜3週間滞在して、訓練を受けます。滞在中の食事もサービスもすべて公的費用に含まれているといことです。トレーニング・センターは通所であればいつでも使うことが出来るそうです。
子供が障害を持って生まれてくると分かったとき、両親だけでなく、祖父母などの親族もここでトレーニングが受けられ、全て国や自治体の責任で資金が出るというように、手厚いサポートが提供されています。
公平性を保つため年間の滞在期間が決まっているのでずっといることは出来ませんが、毎年来ている人もいるようで、赤ちゃんのときから、思春期を迎え、亡くなるまでここである期間、過ごされる人もおり、ここで結婚式を挙げた人も何組かいるそうです。


入口車寄せから玄関


食堂:車いすの高さなどに合わせて、色々な高さの机が用意されています。


足下で高さを調節できる机もあります。配膳カウンターは車いすの人でもトレーを運べる高さになっています。


機能回復ルーム:作業療法士や家族と一緒に作業療法を行います。


幼児用の訓練スペース:家のようなしつらえにし、小さい子供はここで遊ばせながら、生活に必要な動作を訓練します。


ジムと体育館


滞在型の個室


洗面台は高さが変えられます。ミニキッチンも車いす用です。


中庭


芝生の高さが車いすと同じになっています。腰掛けたとき、車いすの人と同じ目線になります。
また、車いすの人もここに容易に移ることができます。車いすで花を植えたり出来る花壇もありました。


車いすに合わせた高さのバーベキューセット

the Rehabilitation Center Synapsia, Helsinki

最後に、協会が運営するヘルシンキのリハビリテーション・センターの紹介です。

事故や病気により脊髄や脳に損傷を受け、身体に障害が残る人々に、リハビリサービスを公的なサービスシステムに併せて提供する、リハビリテーション・センターです。
個別のリハビリセッションの他、コース別、プログラム別のリハビリ、外来のリハビリも提供しています。 理学、神経学の専門医と理学療法士、作業療法士、言語療法士、心理学や神経心理学医、ソーシャル・ワーカーなどがおり、職業相談や余暇の活動、ピア・サポートの相談なども受けられます。 2002年に、アクセシブルなオフィスとして建てられていた現在の施設に移ってきました。 ・・・リーフレットより

こちらは、頸椎損傷や脳性麻痺、脳卒中など、事故や病気による身体障害者が専門のリハビリセンターです。

この建物はアクセシブルオフィスとして建てられた建物で、リハビリテーション・センターは、テナントとして2002年にここに移ってきました。
個別のリハビリセッション、リハビリプログラムとコース、外来のサービスなどがあり、物理療法や神経科の医師、ナース、ヘルパー、物理療法士、作業療法士、言語療法士、心理療法士、ソーシャルワーカー、運動トレーナー、職業訓練士、レジャーのインストラクター、グループ・リハビリテーションやサポートサービスなどさまざまな専門の職員がいます。
協会に委託された国の施設で、研究施設もあります。

ここでも身体的ケアと精神的ケア双方をサポートすることの重要性を強調していました。



玄関:車いすで乗ると、自動で回転してタイヤを拭いてくれます。


受付カウンター:車いすでも使える高さになっています。奥にはラウンジがあります。


車いす用の個室


リハビリ用のプール:長さ18mで、深さが110㎝から190㎝の18mプールです。緩やかな階段と


車いすのまま入れるリフト、


車いすから移乗して入れる場所があります。


更衣室


シャワーとサウナ


ジム


体育館:色々な競技用の車いすが用意されています。

このリハビリテーション・センターは、市民の権利として市民であれば誰でも無料で使えます。
海外から利用しに来たら?と訪ねると1週間単位で何十万かの有償なら、とのことでした。

最近の日本のリハビリテーション・センターを知らないのですが、かつて私が入院していたところと比べ、フィンランドはより患者指向で、生活の場はより地域指向という印象でした。精神的なケアに力を入れているようでしたが、日本では今はどうなんでしょうか。是非、最新のセンターも訪ねてみたいと思います。