学術創成 総合社会科学としての社会・経済における障害の研究
Research on Economy and Disability
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Research on Economy and Disability
学術創成 総合社会科学としての
社会・経済における障害の研究

〒113-0033
東京都文京区本郷7-3-1
東京大学大学院経済学研究科 READ
研究代表者 松井彰彦
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療育手帳について

療育手帳の問題点

READ調査では、療育手帳を保有している場合、手帳に記載されている程度区分を質問している。この調査の集計結果をまとめた冊子(知的障害者・発達障害者編)では、その集計結果を掲載してある。
療育手帳の区分認定(判定基準、等級、サポートなど)は、自治体によって格差がある。そこでREADでは、各自治体の認定事態を調査した。冊子の集計結果では、この調査をもとに、療育手帳保有者の程度区分は重度・中軽度の二区分で記載してある。

以下では、そもそも療育手帳には、なぜそのような格差が存在するのか、調査を実施して明らかになったことと、その感想、また、冊子ではどのような基準で二区分に区分したのか、を簡単に紹介・説明したい。

「法令」と「通知」

『障害者基本法』による障害の定義は『障害者とは、身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者』とされる。これらは、それぞれ障害者手帳によって公的に認知され、その手帳は、障害別に身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳と呼ばれる。
これら三種類の障害者手帳には、それぞれ定義が規定されている。身体障害者手帳は『身体障害者福祉法』、精神障害者保健福祉手帳は『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神障害者福祉法)』である。ところが、『知的障害者福祉法』には療育手帳の規定は存在しない。本解説では療育手帳を取り上げているが、今のべた点が、療育手帳が他の手帳とは異なる最も大きな点である。
身体・精神の二つの手帳制度については「法令」で規定しているのに対し、療育手帳だけは「療育手帳制度について(療育手帳制度要綱)」と「療育手帳制度の実施について」の二つの「通知」で規定している。「通知」は一定の拘束力を持つが、罰則措置が規定されていない"緩い"法律である。そのため、通知の解釈および施行に関して、各自治体の裁量の幅がとても大きくなる傾向がある。
療育手帳に関する「通知」でも、知的障害が「重度」の場合は「A」、「その他」の場合は「B」とされているが、都道府県知事や政令指定都市の市長に必要な事項を手帳に記載することができる事や、手帳の別名を併記する事、A・Bの他に中度等の区分を定めることも認めている。したがって、各自治体は自身の裁量で手帳の交付基準を設定する必要がある。その結果、各自治体は療育手帳の詳細に関して必要に応じて独自に対応していった。そして、関東だけを取ってみても同じ区分表記のものは茨城県と埼玉県だけしか存在せず、加えて、この2県ですら手帳の名称が異なるという、非常に複雑な制度になってしまっている。

今回、READでは全国の療育手帳に関する調査を行った。現在、全国の療育手帳は2〜7区分で表記されており、今回READが行った全国の障害者の生活実態調査でも回答者には詳細な区分をお聞きしている。上述したように、これらの区分は「A 重度」「B その他」の2つの判定を基準とし、各自治体が必要に応じて独自に細分化してきたものである。そのため、全国一律の区分表を作るにあたり、最もわかりやすい区分として、そもそもの基準となっている二区分に集計した。

療育手帳の区分を調べるに当たり、国や自治体が療育手帳制度について模索している事が強く感じられた。このような地域間格差は、ほかでもない当事者とその家族の生活に対して、直接大きな影響を与えることになる。これから、このような点を鑑み、より良い制度に向けて議論される事を期待したい。

ホームページでは、今回収集した療育手帳の区分に関するデータ・資料を掲載いたしました。これからの療育手帳制度の充実に向け、ご利用いただければ幸いに存じます。
療育手帳制度について

(昭和四八年九月二七日) (発児第一五六号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生事務次官通知)

第三 実施主体
この制度は、都道府県知事(指定都市にあっては、市長とする。以下同じ。)が市町村その他の関係機関の協力を得て実施する。
療育手帳制度の実施について

(昭和四八年九月二七日) (児発第七二五号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省児童家庭局長通知)

第三 障害の程度の判定
1 障害の程度は、次の基準により重度とその他に区分するものとし、療育手帳の障害の程度の記載欄には、重度の場合は「A」と、その他の場合は「B」と表示するものとする。
都道府県
政令指定都市
重度 A その他 B
北海道 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
青森県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
岩手県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中、軽度
宮城県 最重度、重度、中度・軽度でIQ50以下+身障1〜3級 中度、軽度
秋田県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
山形県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
福島県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
茨城県 最重度 中度
最重度、重度、中度+身障1〜3級 軽度
栃木県 A1 最重度、IQ21〜35+身障1級と2級の一部 B1 中度、軽度+身障1〜3級と4級の一部
A2 最重度、重度、中度+身障1〜3級 B2 軽度
旧A 旧B
群馬県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
A3 重度、中度+身障1〜3級
埼玉県 最重度、重度+障害児福祉手当に該当する重複障害 中度
重度、中度+身障1〜3級 軽度
千葉県 最重度(18歳未満) B1 中度
Ⓐの1 最重度(18歳以上、常時特別の介助を要する程度の状態) B2 軽度
Ⓐの2 最重度(18歳以上、それ以外)
A1 重度
A2 中度+身障1〜3級
東京都 1度 最重度 3度 中度
2度 重度 4度 軽度
神奈川県 A1 最重度、重度+身障1〜3級 B1 中度
A2 最重度、重度、中度+身障1〜3級 B2 軽度
新潟県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
富山県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
石川県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
福井県 A1 最重度、重度 B1 中度
A2 中度+身障1〜3級 B2 軽度
山梨県 A-1 最重度または重度の知的障害+身体障害者手帳1級〜2級の重複障害者 B-1 中等度の知的障害
A-2a 最重度の知的障害 B-2 軽度の知的障害
A-2b 重度の知的障害
A-3 中等度の知的障害+身体障害者手帳1級〜3級の重複障害者
長野県 A1 最重度〜重度の知的障害 B1 中度の知的障害
A2 中度の知的障害+1〜3級の身体障害の重複障害 B2 軽度の知的障害
岐阜県 旧区分 B1 中度
A1 最重度 B2 軽度
A2 重度、中度+身障1〜3級
静岡県 最重度、重度、中度+身障1〜3級、てんかんによる日常的介護が必要 中度、軽度
愛知県 最重度、重度 中度
C 軽度
三重県 A1 最重度、重度 B1 中度
A2 重度、中度+身障1〜3級 B2 軽度
滋賀県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
京都府 最重度、重度 中度、軽度
大阪府 重度 B1 中度
B2 軽度
兵庫県 重度、中度+生活面、行動面、看護面でAに該当する場合 B1 中度、軽度+生活面、行動面、看護面でB1に該当する場合
B2 軽度
奈良県 旧区分 その他(旧区分)
A1 最重度 B1 軽度
A2 重度、中度+身障1〜3級 B2 軽度
和歌山県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
鳥取県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
島根県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
岡山県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
広島県 最重度、重度+身障1〜2級 中度
重度、中度+身障1〜3級 軽度
山口県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
徳島県 A1 最重度 B1 中等度
A2 重度 B2 軽度
香川県 最重度 中度
A2 重度 B2 軽度
愛媛県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
高知県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
福岡県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
A3 知能指数がおおむね50以下であって、身体障害者手帳の1から3級に該当する者
佐賀県 最重度、重度、中度+肢体不自由・盲・ろうあ等の障害を有する1〜3級の者 中度、軽度
長崎県 A1 発達障害程度が最重度のもの B1 発達障害程度が中度のもの
A2 発達障害程度が重度のもの B2 発達障害程度が軽度のもの
熊本県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
大分県 A1 最重度、重度+介護度3 B1 中度
A2 重度、中等度+介護度3 B2 軽度
宮崎県 最重度、重度、中度+身障1〜3級 B-1 中度、軽度相当+身障1〜4級
B-2 軽度
鹿児島県 旧区分、最重度〜重度 旧区分、中度〜軽度
A1 最重度 B1 軽度
A2 重度 B2 軽度
沖縄県 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
札幌市 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度
B-(バー) 軽度
仙台市 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
さいたま市 最重度、重度+身障1〜2級 中度
重度、中度+身障1〜3級 軽度
千葉市 最重度(18歳未満) B1 中度
Ⓐの1 最重度(18歳以上) B2 軽度
Ⓐの2 最重度(18歳以上)
A1 重度
A2 中度+身障1〜3級
横浜市 A1 最重度、重度+身障1〜3級 B1 中度、軽度+身障1〜3級
A2 重度、中度+身障1〜3級 B2 軽度
川崎市 A1 著しい発達遅滞があって,標準化された検査により判定した結果を指数化したもの(以下「知的指数」といいます。)が,おおむね20以下の場合 B1 発達遅滞があって,知的指数がおおむね36以上50以下で上記A2に該当しない場合
A2 発達遅滞があって,知的指数がおおむね21以上35以下で上記A1に該当しない場合 B2 発達遅滞があって,知的指数がおおむね51以上75以下で上記B1に該当しない場合、特例で自閉症でIQ76〜91
相模原市 A1 最重度、重度+身障1〜3級 B1 中度、軽度+身障1〜3級
A2 重度、中度+身障1〜3級 B2 軽度
新潟市 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
静岡市 最重度 中度、軽度
浜松市 最重度、重度、中度+身障1〜3級、てんかんによる日常的介護が必要 中度、軽度
名古屋市 1度(A) 最重度 3度(B) 中度
2度(A) 重度 4度(B) 軽度
3度(A) 中度+身障1〜3級
京都市 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
大阪市 重度 B1 中度
B2 軽度
堺市 重度 B1 中度
B2 軽度
神戸市 重度 B1 中度
B2 軽度
岡山市 最重度、重度、中度+身障1〜3級 中度、軽度
広島市 最重度、重度+身障1〜2級 中度
重度、中度+身障1〜3級 軽度
北九州市 A1 最重度 B1 中度
A2 重度 B2 軽度
A3 中度と身体障害者手帳1,2,3級の合併
福岡市 A1 最重度精神遅滞 B1 中度精神遅滞
A2 重度精神遅滞 B2 軽度精神遅滞
A3 中度精神遅滞+身体障害者手帳1〜3級