2016年12月26日

合理的配慮とは?

丹羽太一

障害者差別解消法、障害者雇用促進法について
障害者雇用を考える事業者・事業主の方と、就業を考える障害者の方へ
障害者差別解消法

障害者差別解消法は「障害のある人の不当な差別的取り扱いを禁止」する法律です。

事業者は「障害を理由として」、「不当な差別的取扱い」によって障害者の「権利利益を侵害」してはいけません。
―障害者差別解消法第八条 差別の禁止

お客さんとしてはもちろん、雇用の対象としての障害者に対し、「社会的障壁の除去」の実施について「必要かつ合理的な配慮」によって、差別的取り扱いをなくしていく必要があります。

障害者差別解消法では「合理的配慮の不提供」を差別と規定しており、合理的配慮の不提供は障害者差別解消法違反になります。
障害者差別解消法では「合理的配慮の不提供」は差別のひとつのかたちであるとしています。(「不当な差別的取扱い」は作為による差別であり、「合理的配慮の不提供」は不作為による差別です。)また、差別は権利利益侵害のひとつのかたちです。つまり権利利益侵害には差別が含まれ、差別には合理的配慮の不提供が含まれ、「合理的配慮の不提供」については権利利益侵害により法違反が生じるということになります。

環境の整備=事前的改善措置

まず、一般的に不特定多数の障害者が使いやすい「環境の整備」を行わなくてはなりません。これは、あらかじめ障害者集団のニーズを想定して環境を整備しておくもの で、事前的な改善措置とも言われます。

「環境の整備」は「施設の構造の改善及び設備の整備」、すなわちいわゆるバリアフリーの環境づくりです。例えば車いすで設備が自由に使える、視覚に障害があっても自由に動いて情報も得られる、聴覚に障害があってもコミュニケーションがスムースに行える、などがあたりまえにできることが求められます。 さらに、そのためのサービスなどの接遇や社内のコミュニケーション、必要なサポートなどを社員に周知させる「関係職員に対する研修」も必要になります。
―障害者差別解消法第五条 環境の整備

合理的配慮

そのうえで、障害によっては個別に異なる取り扱いが必要になることがあります。この個別に必要な対応も「合理的な範囲であれば」提供しましょうという考え方が「必要かつ合理的な配慮」になります。

法律では、個別のニーズにあった合理的配慮を提供しないことは差別に該当すると定義しています。・・・ 「同じ障害名の人でも、人によってもさまざまな困難さがあるので、その人の特徴にあわせて配慮をする」必要があります。
―http://synodos.jp/welfare/17144

障害者からこういう対応をお願いしますという「意思の表明」があった場合は、事業者は「負担が過重でないとき」には「性別、年齢及び障害の状態」に応じて「必要かつ合理的な配慮」で対応するように「務めなければならない」(行政機関等は「しなければならない」)とされます。
―障害者差別解消法第八条 差別の禁止

何が「合理的配慮」に適用されるのかはケースバイケースで、この障害にはこの配慮、という答えがあるわけではありません。
―http://synodos.jp/welfare/17144

「個々の場面における障害者個人のニーズに応じ、過重負担を伴わない範囲で、社会的障壁を除去すること」が合理的配慮であると言えます。
「環境の整備」が一般的な措置であるのに対し、合理的配慮は個別的な措置になります。 「社会的障壁の除去」には、物理的環境への配慮、意思疎通の配慮、ルール・慣行の柔軟な変更の三つの形態があります。
「過重負担」は、事業への影響の程度、実現可能性、費用・負担の程度、事業規模、財務状況などを考慮に入れます。公的支援も併せて考慮します。
合理的配慮は、「障害当事者が求める機会平等のためにルールを変更する機能」を果たします。異なる者を異なって扱わないときに、合理的配慮の不提供という差別が生じます。差別が生じないよう、対話を通じて、機会平等の達成のために提供されるのが合理的配慮です。

障害者の雇用―雇用者の心構え

雇用の対象としての障害者への対応については、障害者雇用促進法でさらに詳しく述べられています。

事業者が「事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置」については、障害者雇用促進法によってさだめられます。
―障害者差別解消法第十三条 事業主による措置に関する特例

障害者雇用促進法

「事業主」は「募集及び採用について」、障害者であっても障害者でなくても「均等な機会」を「与えなければならない」とされます。
また、「賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇」に関して障害者であることを理由に「不当な差別的取扱い」をしてはいけません。
―障害者雇用促進法第三十四条・第三十五条 障害者に対する差別の禁止

雇用における合理的配慮

「均等な機会」の確保に支障がある場合は、それを改善するため「障害の特性に配慮した必要な措置」を「講じなければ」なりませんが、もし雇用する側に「過重な負担」となる場合は「この限りでない」とされています。
「均等な待遇」の確保や「能力の有効な発揮」に支障がある場合も、それを改善するため「障害の特性に配慮」して、「職務の円滑な遂行」に必要となる「施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置」を「講じなければ」なりませんが、これも「過重な負担」となる場合は「この限りでない」とされています。
ただし、どちらの場合も「障害者の意向を十分に尊重」し、「相談に応じ」て「体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を「講じなければ」なりません。
―障害者雇用促進法第三十六条 雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等を図るための措置

みんなに等しい機会を保証すること(イコール・オポチュニティ)、障害があろうがなかろうが、人間なら誰でもその機会を享受(原文:機会に参加)できるということ(イコール・アクセス)を認めた上で、調整をして障害がある人も参加できるような環境に変えていくということです。
―http://synodos.jp/welfare/17144

そこでは「その場を共有する人たちの間での合意形成」が必要になります。
―http://synodos.jp/welfare/17144

障害者雇用促進法では、「不当な差別的取扱い」と「均等な機会の不提供」は差別になります。合理的配慮の提供は法的義務となります。
合理的配慮は、障害者の「均等な機会や待遇の確保」と「能力の有効な発揮」のために提供されるものです。
合理的配慮については、それを求める障害者の「意向の尊重」が重要です。その際プライバシーの保護についてもその意向を尊重しなければなりません。また、提供する側についても「本来業務付随、機会平等、本質変更不可」※1といった原則は、総合的・客観的に判断して考慮される必要があります。
合理的配慮を提供するプロセスは事後的性格、個別的性格、対話的性格を持ちます。障害者による意思の表明、申出のあった後、その多様かつ個別性の高い個々の事情を考慮して、相互理解のもとで提供されるものです。話合い(対話)の中で模索され確定していくプロセスであることを理解する必要があります。

※1 合理的配慮は、「事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られる」、「障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものである」、「事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばない」ことに留意する必要があります。
―内閣府・障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 合理的配慮の基本的な考え方

*厚生労働省では障害者雇用促進法にもとづいた「差別の禁止に関する指針」が定められています。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000078980.html

合理的配慮の手続

募集及び採用時
まず、障害者から、支障となっている事情及びその改善のために必要な措置を申し出てもらいます。 それを受けて事業主は、支障となっている事情が確認された場合、どの様な措置を講ずるかについて当該障害者と話合いを行います。
話し合いにもとづいて、事業主は講ずる措置を確定するとともに、措置の内容及び理由(「過重な負担」にあたる場合は、その旨及びその理由)を障害者に説明します。

採用後
採用したらこんどは、事業主から障害者に対し、職場で支障となっている事情の有無を確認します。 支障となっている事情が確認された場合、どの様な措置を講ずるかについて当該障害者と話合いを行います。
話し合いを受けて、事業主は講ずる措置を確定するとともに、措置の内容及び理由(「過重な負担」にあたる場合は、その旨及びその理由)を障害者に説明します。
―改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮 に関する Q&A【第一版】

求められる心構え

改正雇用促進法では当事者から申し出があればちゃんと話を聞かないといけないと定めています。

「何が違法かという最終的な決着は裁判所の規範的な事例が示していくこと」になります。  

「その配慮が当事者のニーズと合うかどうか、コミュニケーションをしっかり成立させる」必要があります。

「本人側がはっきりと伝えられないとき」に、「困っているようだけど、何かできることはあるだろうか」と「建設的対話」を働きかけることが求められます。

「対話をすることは法の趣旨として勧めて」います。

「人的なリソースや担当協力者をご本人が見つけやすい仕組みを作ることも、今後は重要な課題」になります。

「合理的配慮の提供は、新しいテクノロジーによって解決を促進していくという方向性」もあります。「コストをなるべくかけずに合理的な調整をしていく方法」もあります。また「コストはある程度かかるけれど、一旦の調整がご本人以外の多くの方々の便宜を図る結果となる場合」もあります。
―http://synodos.jp/welfare/17144

公的支援制度

障害者雇用に関しては、障害者の雇入れに対する助成金や、障害者雇用に伴って必要となる 措置に対する助成金等、様々な助成金制度があります。
また、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構等による職場適応援助者の援助や、障害者 就業・生活支援センター等の障害者就労支援機関の支援員による支援等、助成金以外の支援 も実施しています。
【障害者雇用に関する助成金】
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha/intro-joseikin.html
【(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構による支援】
https://www.jeed.or.jp/disability/

当事者の自己決定―障害者の心構え

まずは本人が、「自分にはこういうニーズがあります」と機関側に開示・提示していくことが必要です。
―http://synodos.jp/welfare/17144

障害者雇用促進法において、合理的配慮の提供については、募集及び採用時の障害者からの合理的配慮の申し出がまず出発点です。

募集及び採用時における合理的配慮が必要な障害者は、事業主に対して、募集及び採用に当たって支障となっている事情及びその改善のために希望する措置の内容を申し出る」必要があります。

「その際、障害者が希望する措置の内容を具体的に申し出ることが困難な場合は、支障となっている事情を明らかにすること」で足ります。

ただ、「合理的配慮に係る措置の内容によっては準備に一定の時間がかかる場合があることから、障害者には、面接日等までの間に時間的余裕をもって事業主に申し出ること」が必要とされています。

「この法律ではニーズの発言者は本人※2、とはっきり規定していますから、ご本人が勇気を持って機関側に伝えていくことも大事」です。

「どこまでが合理的配慮か」はケースバイケースなので、「本人がどう求めていくか」が大切になります。
―http://synodos.jp/welfare/17144

※2 ただし「知的障害等により本人が自ら意思を表明することが困難な場合には、その家族等が本人を補佐して意思の表明をする場合も、解釈上含み得るものと考えている」となっています。 http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65_ref2.html

事業主は「募集及び採用に当たって支障となっている事情が確認された場合、合理的配慮としてどのような措置を講ずるかについて当該障害者と話合いを行う」ことになっています。 さらに、もし「障害者が希望する措置の内容を具体的に申し出ることが困難な場合は、事業主は実施可能な措置を示し、当該障害者と話合いを行う」こととされています。

「障害のある当事者の側が「自分はこれが合理的だと思うが、どうだろうか」と言って、それを提供する側も筋が通っていると納得した時」に合理的配慮が成立します。

「お互い歩み寄って一緒に行動して、初めてその場に必要な配慮は具体的に何なのかが」わかります。
―http://synodos.jp/welfare/17144

そのうえで、「その意向を十分に尊重しつつ、具体的にどのような措置を講ずるかを検討し、講ずることとした措置の内容又は当該障害者から申出があった具体的な措置が過重な負担に当たると判断した場合には、当該措置を実施できないことを当該障害者に伝える」場合があります。 また代替の措置を提案されることも考えられますが、その場合も「当該障害者との話合いの下、その意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮に係る措置を講ずる」ことになっています。

どちらの場合も「当該措置を講ずることとした理由又は当該措置を実施できない理由」の説明を求めることができます。

就労時には、こんどは事業主が「当該障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認する」必要があります。就労前にわかっていればその支障を解決しておき、また、就労後に問題がわかった場合や、障害の状態が変わったり、新たに障害を負った場合などでも、「障害の状態や職場の状況が変化することもあるため、事業主は、必要に応じて定期的に職場において支障となっている事情の有無を確認する」ことになっています。 もちろん、「事業主からの確認を待たず、当該事業主に対して自ら職場において支障となっている事情を申し出ること」も可能です。 いずれにしても事業主は、「その改善のために障害者が希望する措置の内容を確認」する必要があります。その際も、「障害者が希望する措置の内容を具体的に申し出ることが困難な場合は、支障となっている事情を明らかにする」だけでも構いません。

「合理的配慮としてどのような措置を講ずるかについて」の「当該障害者と話合い」や、「具体的にどのような措置を講ずるか」については、募集および採用時と同じです。
―合理的配慮指針第3 合理的配慮の手続

いかなる場合も、「合理的配慮は個々の障害者である労働者の障害の状態や職場の状況に応じて提供されるものであるため、多様性があり、かつ、個別性が高いものである」とされています。
―合理的配慮指針第4  合理的配慮の内容

「当事者の方がたった一人で」交渉するにあたって、「この法律ができたことによって、法的な裏付けが確立」しました。

合理的配慮は、雇用する側とされる側がよく話し合い、お互いの合意のもとでその実践が行われていくもので、これからみなさんが実例をつくっていく必要があると考えていけば良いのではないでしょうか。

「法律が動きだすにつれて、説明のしやすい環境が整っていく面もある」と考えられます。

「前例が少ないケースでは、自分から対話を積極的にやっていき、フロンティアになることがどうしても必要になって」きます。

必要になってくるのは障害のある当事者がしっかり声をあげていくことだと思います。
―http://synodos.jp/welfare/17144

7/16 REASE 公開講座「合理的配慮―対話を開く,対話が拓く」もご参照下さい